深野の答え:「運用で取り戻す」だけは、やってはいけない

まずは、損失を冷静に見極める

問題は「大損失」がどれぐらいのレベルなのか、ということです。

まずは、損失を「現実的にリカバリーできる範囲かどうか」を冷静に判断する必要があります。もし、リカバリーできる範囲内であれば、いいづらいという気持ちを押して、まずは謝る。多少、奥さんから怒られたり、家族の中で立場をなくすかもしれませんが、その程度ですむのなら、ぐだぐだ考える気持ちと時間がもったいないだけなので、一刻も早く報告すべきです。

リカバリーの範囲を超えた場合であっても、基本的には素直に謝ったほうがいい。では、ここで一番やってはいけないことは何でしょう。それは「運用で取り戻す」ことです。想像を超える損失を挽回するためには、どうしてもハイリスク・ハイリターンを狙うことになります。リスキーな運用に手を出すしか取り戻す術がないとなると、勝ちの目は限りなく小さくなる。勝率はせいぜい数%程度といったところでしょう。

運用や投資とは、日々勉強することが一番大事です。別の言い方をするならば「勉強する覚悟」がない人は、資産の運用や投資をするべきではありません。それは、退職金の運用でも同じです。

退職金としてまとまった金額を手にした人の多くは、「運用を考えるべきだろうか」と考えます。さまざまな機関が「老後の生活資金はこのくらい欲しい」といったアンケートをとった結果、「最低でも3000万円いる」という話が蔓延しています。しかし、本当にそうでしょうか。鵜呑みにするのは早計です。

リタイアした人に資産運用のアドバイスを求められた際、私が真っ先に告げるのは「運用しようなんて安易に考えてはダメ。まずアタマを冷やせ」ということなのです。

定年退職した直後と、その10年後、20年後では、お金の使い方が大きく変わってきます。病気になるリスクなど予測不可能な部分も確かにあるため、一概にはいえませんが、年々、生活費は少なくなると考えてもいいと思います。リタイアして地方に住むようになったら、なおさらです。こうした点も考慮して、「定年後の生活費はいくらかかるか」を自分で計算しプランニングすることは、運用で増やすことよりもずっと大切なことなのです。

真面目で勉強家の人ほど、投資に手を出していないというのが、ファイナンシャルプランナーの経験を通じて得た結論です。真面目な人は運用のリスクを含めて十分に勉強し、しない場合との比較を検討し踏み止まる場合が少なくありません。これに対して勢いで運用をはじめる人、一攫千金を夢見る人の大多数は、勉強をしません。勉強してリスクを理解することがないからこそ、大勝負に出る。そして失敗するのです。

やってしまった失敗は素直に反省するとして、くれぐれも一発逆転などを狙わないことですね。

「完璧を求める人ほど、投資をしない」
本田 健
『ユダヤ人大富豪の教え』(だいわ文庫)など著作は700万部を突破。近著に『運命をひらく 生き方上手 松下幸之助の教え』(PHP研究所)。
 

深野康彦
ファイナンシャルプランナー
1962年生まれ。大学卒業後、クレジット会社を経て独立系FP会社に入社。以後、金融資産運用設計を中心としたFP業務に研鑚。96年に独立。『これから生きていくために必要なお金の話を一緒にしよう!』(ダイヤモンド社)など編著、著書多数。
 
(構成=田中 裕、東 雄介 写真=iStock.com)
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