年齢を重ねることで、伸びる結晶性知能
人の能力は若いときのほうが優れている――。これは一面では正しくて、一面では間違っている。そう指摘するのは、諏訪東京理科大学で脳の働きを研究する篠原菊紀教授だ。
「流動性知能といって、その場でパッと覚え、その記憶を使ってできるだけ早く処理する能力は確かに18~25歳くらいがピークです。しかし仕事の能力に深く関わっている結晶性知能は違います」
流動性知能はIQテストで測られるような知能だ。それに対して、結晶性知能は経験が豊かになるにつれて伸びる知能を指す。
「知恵や知識、経験が結晶化していく能力なので、結晶性知能と呼ばれています。60歳くらいがピークというデータもあるのですが、原則、年を取れば取るほど高くなると考えられます」
若い人よりも年長者のほうがボキャブラリーは豊富だし、仕事に関する知識や経験も蓄えている。過去の多くの手法を知っていたり、それまでの業務上の成功や失敗の経験があるほうが有利であるのは当然だ。
加えて仕事に対する集中力も若い人が有利とは一概にいえないと篠原教授は話す。
「集中力そのものは若い人のほうが高いのですが、仕事に関しては、それを取り巻く領域について知らないと、どう集中していいかわからないのです」
若い人が経験の浅い分野で仕事をするのと、ベテランが手慣れた分野の仕事をするときのケースを想定すると、よく理解できるだろう。知識や経験が不足している若手は、仕事をするために準備するだけで集中力を使い果たしてしまうことがある一方で、熟練者の場合、準備はもう整っているから仕事そのものに集中できる。知識や経験が集中力にプラスの影響を与え、仕事の出来栄えに反映されるというわけだ。
知能や集中力は年齢が上がっても、伸びる可能性があるとわかった。しかし「最近、物覚えが悪い」と、自覚が出てきたという人もいるだろう。たとえば、あの人の顔は思い浮かぶんだけど、名前が出てこないといったケースだ。やはり記憶ばかりは年とともに衰えるのだろうか。
篠原教授は「覚えられなくてもそんなに心配することはない」と安心させてくれる。