「メルカリ♪」の音声ひとつにこだわり

2014年3月に調達した14.5億円を原資とし、メルカリは同年5月からテレビCMを流し始めたが、実は、半年以上も前から周到に準備されたものだった。

山田がこだわったのが科学的なアプローチ。テレビCMの経験がある起業家仲間からの情報に加え、広告代理店が把握しているCMの効果測定や、調査会社アップアニーが提供しているアプリ市場のデータを取り寄せ、テレビCMの効果を子細に分析した。

結果、ダウンロード数が少ない時よりも、100〜150万件以上の実績がある時のほうがCMの効果が高いことが分かった。最後の画面で「何百万ダウンロード突破」という文言を入れる、ブランド名をCM冒頭で明確に音で表現する、といった効果的な手法も見えてきた。

広告代理店を博報堂に決めた後、ミクシィ取締役を経て2013年12月にメルカリに移った小泉文明(2017年4月より取締役社長兼COO)を中心にCM制作を進めたが、数え切れないほどの修正を重ねたという。「メルカリ♪」という音声ひとつにしても、レコーディングやミキシングを何度も繰り返した。

結果、2014年5月頭、CMを流す直前に約200万件あったダウンロード数は、5月末には100万件増加。さらに流通総額が2倍になるなど、既存ユーザーの取引も含めて活性化させることに成功した。

「ほんの少しの差が決定的になっていく」

こうした1つひとつのこだわりの効果は、少ないかもしれない。しかし、その細部へのこだわりこそが重要だと山田は説く。

「ほかのネットサービスよりもほんの少し、1%でも良い部分が積み重なっていけば、複利ですごい差になっていく、というようなことを米アマゾンのジェフ・ベゾスCEOなども言っていますが、そこは僕自身もわりと信じていまして。CMを見た100人のうち1人が興味を持ってくれるか2人なのか、あるいは、ダウンロードした100人のユーザーのうち10人が出品してくれるか11人なのか、微妙な差ですが、このこだわりが、決定的な差になっていったというのは確実にあると思っています」

3つのこだわりで国内のレースを勝ち抜き、上場へと導いた山田。言うは易く行うは難し、だが、最初からグローバル市場を見据える「目線の高さ」があったからこそ完遂できたのだろう。