「休肝日は中ジョッキ3杯まで」
「中ジョッキ3杯までで終わらせた日は休肝日だと思っていたんだけど、ビールってあれ、水じゃないんだってね?」
イラストレーター・作家の吉田類さんは、そう言う。2003年から始まった、日本各地の酒場を紹介する番組『吉田類の酒場放浪記』(BS-TBS)で毎週楽しく酒を飲む姿を見せ、「酒飲みのアイドル」と呼ばれるようになった。居合わせた客の輪に入り、番組が進むにつれてどんどん酔っぱらっていく様子が、酒好きだけでなく下戸の視聴者からも愛されている。
吉田さんは『酒場放浪記』以外にも、講演会、取材、あるいは趣味の登山などで年中全国のあちこちを旅している。その先々で酒を飲み、各地の飲み方を教わり、店主や居合わせた客の人生を聞く――そんな体験をまとめた紀行エッセイ『酒は人の上に人を造らず』(中公新書)を刊行した。
「本を書いたのは、編集者に頼まれたから(笑)。数年前、僕の講演会に雑誌『中央公論』の編集者が来て『お仕事ご一緒しましょうよ』と言ってくれて。それでこのエッセイを書き始めたんです。本来の僕は酒を飲んでいるだけではなくて、絵描きや物書きをやっているから、その一環にすぎないんですよ」
全国を訪ねて各地の飲み方を知る
「酒を飲んでいるだけではない」と言いつつも、本書の中の吉田さんは『酒場放浪記』のイメージそのままに、全国各地で飲みまくり、酔っ払いまくっている。例えば、京都は祇園で飲んだときの思い出はこうだ。
〈酒神の降りてきた日〉
「酒の飲み方はね、全国各地で全然違うんですよ。それを味わうのが好きだし、発見がある。山形のある飲み屋に行ったらおじいさんが1人でいて、最初に透明の液体をグーッと一気飲みしていた。『まず水を飲むんだな』と思ったら、日本酒だったんだよね。ビールをグーッとやる感覚で、いきなり日本酒を飲み干していた。珍しいことではなくて、山形の人は日本酒の独酌をすることが多いらしいんですよ。誰かとおしゃべりをする時間もなしに飲み続ける傾向にあるから、日本酒の消費量が多いんだそうです」