「世界で最もヤバい起業家」と呼ばれるピーター・ティール。決済サービス「ペイパル」創業者であり、投資家としても活躍するシリコンバレーの伝説的人物です。ペイパルは彼だけでなく、イーロン・マスク(スペースX)やリード・ホフマン(リンクトイン)ら名だたる起業家を世に出しました。今回は、2016年の大統領選でトランプ支持にまわり世間の度肝を抜いた彼の「真の狙い」に迫ります。

※本稿は、トーマス・ラッポルト『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』(赤坂桃子訳、飛鳥新社)を再編集したものです。

ピーター・ティールの近影(c)Manuel Braun

トランプに「逆張り」したティールの勝利

2016年秋。ドナルド・トランプの勝利に多くの人が仰天し、シリコンバレーの大物たちはふさぎ込んでしまった。だがティールはちがった。その逆張り戦略がふたたび実を結んだのだ。彼は、ニュースや事前調査の予想は正反対だったにもかかわらず、ドナルド・トランプの勝利を疑ったことはなかったと述べている。

「トランプが勝つ見こみは低く見積られすぎていました。世論調査はトランプに票を投じた人々の存在をすくい上げていなかったのです。ブレクジット(英国のEU離脱)のときと同じ状況ですよ」

トランプの相手がヒラリー・クリントンではなく、バーニー・サンダースだったら、トランプは「勝つのは相当むずかしかったでしょう」とティールは述べている。

トランプ選挙陣営のバイブルだった『ゼロ・トゥ・ワン』

突然ティールはトランプ政権で、テクノロジー分野の政策アドバイザーを務めることになった。大統領指名が行われた共和党全国大会で演説し、選挙戦を支援した苦労が短期間で報いられたのである。トランプの「スタートアップ」は、ほんの数か月でそれなりのビジネスモデルを確立し、破壊的政策によって世界最大の経済大国になることをかかげて始動した。

だがティールはどうやってこの椅子を手に入れたのか?

全国大会での印象的な演説と125万ドルの献金によって、彼はトランプの娘婿ジャレッド・クシュナーと妻イバンカ・トランプの注意を引きつけた。クシュナー夫妻はもともとティールをよく知っていた。ジャレッドの弟のジョシュアはオスカー・ヘルスの創業者だ。現在の評価額27億ドルのこのスタートアップは、高くて非効率な米国のヘルスケアは、もっとスリムで効率的でユーザーフレンドリーに設計できることを示した「希望の星」だ。ティールはこれまでにファウンダーズ・ファンドを通してかなりの額をオスカー・ヘルスに投資している。2016年に彼は4億ドルの投資ラウンドに参加した。このラウンドにはフィデリティやグーグル・キャピタルのような投資会社も加わっている。

著書『ゼロ・トゥ・ワン』の影響も大きかった。この本は選挙期間中、トランプ陣営の「バイブル」だった。スタートアップ、マーケティング、テクノロジーとグローバル化といったテーマに関するティールのメッセージは、選挙陣営にとって重要な「武器」だったのである。