「世界で最もヤバい起業家」と呼ばれる起業家、ピーター・ティール。決済サービス「ペイパル」創業者であり、投資家としても活躍するシリコンバレーの伝説的人物です。その発想は飛び抜けています。エネルギー政策では、「あと10倍の改善は可能だ」として原子力推進が持論。医療政策では、120歳まで生きるため「若返り」の研究を進めています。彼がたくらむ人類の「アップデート」の内容とは――。(第5回)

※本稿は、トーマス・ラッポルト『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』(赤坂桃子訳、飛鳥新社)を再編集したものです。

ピーター・ティールの近影(c)Manuel Braun

トランプ政権に加わったティールの狙いとは?

ドナルド・トランプの当選後、政権移行チームに迎えられたことで、メディアはティールがいずれ重要ポストに就任するかもしれないと書き立てた。だが、ティールの戦略はちょっとちがう。政治に関しても目端がきく彼は、西海岸にとどまるほうが自分のネットワークを活かし、テクノロジーと金融の分野で影響力を発揮できるとわかっているのだ。

「歴史の本の新たな1ページが開かれました。僕たちの抱えている問題を新しい視野に立って考える可能性が開けたのです」

トランプが選挙に勝利した直後にティールはそう発言している。公職に就いていなくても、「僕は自分のできる範囲で、大統領をあらゆる観点から助けていくつもりです」と彼は述べている。

ティールにとっては、これまでインターネット、ソフトウェア、バイオテクノロジー、運輸、宇宙開発の分野の企業に投資してきた中で浮き彫りになった諸問題に、政治的な影響力によって強力にテコ入れできる千載一遇のチャンスだった。

世界のインフラはアップデートされていない

著書『ゼロ・トゥ・ワン』にはこんなくだりがある。テクノロジーの進歩は、60年代終わりの月面着陸と超高速旅客機コンコルドの登場でピークに達した。その後テクノロジーが停滞した理由の中でいちばん大きいのは、国による規制強化だ。コンピュータおよびソフトウェア分野だけが、独自のデジタル世界の中で、ムーアの法則とPCおよびインターネット産業の成長に助けられて大きな発展を遂げた。だがティールによれば、「私たちの社会を確実に前に進める」だけでは十分でない。ティールは2017年4月にこう語っている。

「スマートフォンは僕らの目を現実から逸らし、現実環境がひどく老朽化していることからも目をそむけさせてくれます。たとえばニューヨークの地下鉄網は、敷かれてから100年もたっています。僕らのインフラの多くはアップデートされていないんですよ」

だが政府に希望がないというわけではない。かつては核開発や宇宙計画のような複雑な人類史的プロジェクトを成功に導くこともできた。だがこの40年間に力点が置かれてきたのは社会保障やヘルスケア制度などだ。