グローバル化は「コピペ」である

トーマス・ラッポルト、赤坂桃子訳『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』(飛鳥新社)

ティールはテクノロジー分野を重視する政治を望んでいる。グローバル化は彼にとっては「コピー・アンド・ペースト」でしかない。中国やインドのような躍進めざましい国々は、コピペによって先進世界に迅速に追いついている。中国の長足の進歩を見れば一目瞭然だ。

中国は「中国製造2025」計画で、代替エネルギーとeモビリティを取り入れたハイテク産業4.0の実現をめざしている。最近では中国の巨大インターネット企業テンセントがテスラ株の5パーセントを取得した。イーロン・マスクはその数週間後に訪中し、汪洋副首相と会談した。テスラは中国に工場を建設し、中国市場進出をねらっていると見られる。ティールも国際経済においては貿易障壁がもう機能しないことを知っている。

現代の資本主義体制とグローバルな資本連携はもはやとどめようがない。だからこそ急がれるのが、テクノロジーを最前線に押し出すような大きなビジョンを持つ「ニューディール」だ。だが机上では簡単そうでも、実現させるのは容易ではない。

ティールも、新しいことをはじめるには政府のカネが必要だと痛感している。新しいテクノロジーの典型がテスラとスペースXだ。しかし両社は政府援助(テスラ)と国の委託(スペースX)の恩恵も受けている。大きな事業は、政治的ビジョンと、リスクを恐れない民間サイドの気概との間のコンセンサスがないと実現はむずかしい。

イノベーションに対する需要は持続的

そのためには、トランプが発表した数兆ドル規模のインフラ計画が有効かもしれない。財源と目されているのはテクノロジー企業だ。その計算書は天才的だ。米国の大企業の外国口座には2兆ドル以上の非課税の利益がある。アップルやアルファベット(グーグルの親会社)などの手持ち資金は毎月増える一方だ。トランプは大規模税制改革の一環として、有利な税率によって利益の本国送還を企業に促そうとしている。そうすれば国には数千億ドル規模の税金が入り、テクノロジー企業は資金を合法的に米国に戻して、それを研究開発活動や企業買収に投資できる。

この流れは、米国のテクノロジーとインフラ刷新に向けた一歩になるかもしれない。ティールは年3パーセントを超える経済成長が持続すれば、広範囲で経済に弾みがつき、あらゆる層の国民がその恩恵に浴することができると考える。高度経済成長をとげた中国は、何億もの貧しい人々が中流階級になれることを示した。

現在の米国の労働市場統計によれは、見かけ上はほぼ完全雇用が実現している。経済は十分に力強く成長しているように見える。だが実際には、多数の長期失業者が統計に反映されていない──彼らは就業斡旋の対象から外れているからだ。さらに好景気に沸くニューヨークやシリコンバレーなどを除く国内の大部分の地域では、賃上げは止まったままだ。つまり、イノベーションに対する需要は持続的に存在するのだ。