AIは人間の仕事を奪わない

イノベーションと経済成長と雇用創出の兼ね合いについて考えるとき、ティールは、「テクノロジーの進歩は雇用をうばう」とする経済学者たちとは距離を置いている。シリコンバレーでも、無条件のベーシックインカムを擁護する人間はいる。人間が「考える機械」AIに仕事を奪われるのではという心配もある。

しかしティールはそうは考えない。

「人間は仕事と資源をめぐって競争しますが、コンピュータには競争がありません」

『ゼロ・トゥ・ワン』で彼はそう述べている。テクノロジーは彼にとっては人間の能力を補うもので、グローバル化と価格圧力の影響下にある被雇用者の生産性を高め、より高い付加価値の可能性を与えてくれる。

「人間は計画を立て、複雑な状況で決定を下すことができます。コンピュータは正反対です。すぐれたデータ処理者ですが、もっとも簡単なことでも決定できません」

彼は自身の経験から、人間と機械は協力しあい、そのときどきで互いの強みを活かして最適なソリューションを見つけ出せると考えている。

21世紀にはコンピュータが人間を凌駕するときがくるだろうか? というブルームバーグのインタビューに対し、ティールは、それは経済の問題としてではなく、政治あるいは文化の問題として考えるべきだと答えている。彼があげた例は、地球外生命体が地球に降り立った場面だ。それを見た私たちは「それ」が自分たちの仕事にどんな影響を及ぼすか考えるのではなく、それが友好的か、友好的でないかを気にするだろうというのだ。

彼の指摘は核心をついており、政治と社会に新しい視野を広げ、従来型の思考にとらわれない考え方をするための刺激を与えてくれる。

トーマス・ラッポルト(Thomas Rappold)
起業家、投資家、ジャーナリスト
1971年ドイツ生まれ。世界有数の保険会社アリアンツにてオンライン金融ポータルの立ち上げに携わったのち、複数のインターネット企業の創業者となる。シリコンバレー通として知られ、同地でさまざまなスタートアップに投資している。シリコンバレーの金融およびテクノロジーに関する専門家として、ドイツのニュース専門チャンネルn-tvおよびN24などで活躍中。他の著書に『Silicon Valley Investing』がある。
(撮影(ピーター・ティール)=Manuel Braun)
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