第一に、各ネゴシエーターが技術の複雑さをどの程度把握しているかが、売却、棚上げ、ライセンス供与という3つの選択肢についての見解に影響を及ぼすと思われる。第二に、ヘキシガラス製品の長期的な需要にも、生産を停止することで工場の効率が上がるか否かという問題にも、不確実さがつきまとう。第三に、研究開発部長は「発明者のバイアス」のために、ライン・マネジャーの主な目的が上司に好印象を与えることにあるために、目が曇っている可能性がある。第四に、この技術をライセンス供与したら、予想外の組織再編が必要になるかもしれない。

これらの厄介な問題が考えられるなかで、マネジャーたちはどのように交渉を進めればよいのか。われわれなら次の3つの戦略をすすめる。

(1)コミュニケーション・ミスを防ぎ、信頼を築く

ネゴシエーターは技術についての思い込みを抱きがちであり、聞きたいことだけを聞いてしまいがちだ。実質的な交渉に入る前に手順の基本ルールをはっきり決めておくことで、技術に関する誤解は防げる。

互いをより深く理解するためには、たくさん質問し合い、答えを注意深く聞くべきだ。さらに、同じことを別の言葉で表現したり、自分の説明をビジュアル・エイドで補完したりする必要もある。相手の反応を観察するだけでなく、意見の相違については必ず詳しい説明を求めることも必要だ。

特定のシステムを推奨している人は、えてしてその技術の弱点が見えなくなる。「発明者のバイアス」を中和するためには、公平な専門家を呼んできて、その技術の強みや弱みについて独自の判定を下してもらえばよい。

技術交渉では、予想外の提案に対応するのに法務部や上司と相談しなければならないことが多い。こうしたやりとりの間に信頼が一瞬で崩れるおそれがある。信頼を築くには、本当のことを言い、言ったことを守ることが鉄則。悪いニュースをごまかさず、守れる自信のない約束はしないことだ。