交渉は社外の人とだけするもの、と思ってはいないだろうか。組織で人の上に立つ人は、自分に従う人たちの個人的利益を理解し、彼らが進んでついてくるような話し方をしなくてはならない。
交渉は顧客や納入業者や債権者と取引するために組織の外で使うツールだと考えているマネジャーが多い。対照的に組織の中では、彼らの考えは往々にして「私のやり方に従わないなら出ていけ」だ。一般的には、人を管理するためにはカリスマ性とビジョンと威厳ある態度が必要であり、交渉のスキルは必要ではないと考えられている。真のリーダーは交渉する必要がない、ということだ。
これはリーダーシップについてのよくある誤解である。リーダーシップは「個々人に、集団の利益のために望ましいやり方で自発的に行動させる能力」と定義することができる。事実、リーダーシップには必ずといっていいほど交渉がともない、優れたリーダーは例外なく有能なネゴシエーターだ。
経験豊富なマネジャーは、人々を権威によって導くことには限界があることを知っている。なにしろ、部下の中には当然、自分より頭のいい人や才能のある人、それに別の状況では自分より権力のある人間がいるのだから。おまけに、委員会や役員会のメンバーや組織の他の部署のメンバーなど、自分の権限の及ばない相手を導くよう求められることも多い。
リーダーシップのスキルを高めるには、交渉における次の4つ側面──利益、人間関係、伝達法、ビジョン──に注目することが役に立つだろう。