(1)相手の利益を基本にする
あなたが導くことになっている人々はなぜあなたに従うべきなのか。自分のカリスマ性や高い地位やビジョンがその十分な理由だと思っているとしたら、あなたはリーダーとしての役目をスムーズにはこなせないだろう。これらの資質は人々があなたとどのような関係を持つかにも影響するが、実際には、人々があなたに従うのは、それが自分の最善の利益だと判断したときだ。個人として行動していても、チームで行動しても、人はほぼ必ず自分の利益を最優先する。
賢明なネゴシエーターが相手の立場ではなく相手の利益に注目するように、有能なリーダーは自分が導く相手の利益を理解しようとし、組織の目標を達成するためにその利益を満たす方法を見つけようとする。
リーダーが自分の導く人々の利益を十分理解できなければ、悲惨な結果がもたらされる場合もある。1985年にジョー・フォーランという男が、アメリカ南西部の石油・ガス鉱床の発見・開発を目的とするマタドール・ペトロリアムを設立した。買収を重ねて、彼は同社をテキサスで大手の非公開石油会社に成長させた。資本を集めるために彼は出資者にマタドールの取締役のイスを与えた。会長兼CEOのフォーランはマタドールの株式の10%を持つ同社最大の個人株主だった。
2003年、デンバーの上場石油会社、トム・ブラウン社が、マタドールを3億8800万ドルで買収したいと申し入れてきた。フォーランは、この売却に反対だったが、取締役会で他の取締役が売却賛成の票を投じたとき、彼は愕然とした。他の取締役の利益は自分の利益と同じではないということに、初めて気づいたのだ。
フォーランにはマタドールをさらに大きな会社に育てるだけの意欲と才能と時間があった。しかし、他の取締役のほとんどはすでに現役を退いた人々で、株式市場の下落と投資リターンの減少によって痛手を受けていた。彼らの利益は現金をつかんで逃げ出すことだったのだ。このことをもっと早く理解していたら、フォーランは取締役たちに彼らが必要としていた現金を与え、自分がマタドールの支配権を握り続けられるような仕組みをつくっていただろう。
人々の利益を本当に理解するためには個人としての彼らを知る必要がある。社員の真の利益はどこにあるのかを理解すれば、リーダーは会社の目標を達成しながらその利益を満たすよう、自らのメッセージや行動を組み立てることができる。