【ヘキシガラスの事例】
最先端のガラス・セラミック製品を開発・製造しているクレムテク・コーポレーションは、長年、業界リーダーとみなされていた。しかし、ここ数年は競争が激化し、同社の利益は低下している。クレムテクのCEOは上級幹部たちに、さしたる市場も利用法もない技術は処分するよう命じている。
クレムテクの競争相手、アドバンセラミックスが、先ごろクレムテクの超耐久性ガラス製品ライン、ヘキシガラスを250万ドルで買収したいと申し入れてきた。わずか6社の顧客が12種類の製品を注文するだけのヘキシガラス・ラインを担当しているのは、12人の社員。製品ラインの売却が無理なら、その生産技術を2年間ライセンス供与してもらうだけでもよいと、アドバンセラミックスは言っている。
ヘキシガラス製造工場の3人の幹部が、将来について話し合うよう命じられた。特殊セラミックス担当の製品ライン・マネジャー、研究開発部長、それに工場長である。当然ながら、彼らはそれぞれ異なる意見を持っている。
ヘキシガラスの発明者でもある研究開発部長は、この技術を売却することに強く反対している。彼はヘキシガラスに対する需要はいずれ急増すると信じており、それまではこの技術を大事にしまっておき、チームを存続させて新しい利用法を試したいと思っている。
製品ライン・マネジャーはオファーを受け入れたいと思っている。売却は金銭的利益をもたらすし、短期的な生産性も向上させると思うからだ。それに加えて、好条件の契約に向けて動くことでCEOに好印象を与えたいという思いもある。
工場長はベテラン社員を解雇したくないと思っており、ライセンス料と引き換えにヘキシガラス技術を短期間ライセンス供与し、チームを存続させるという案を支持している。そうすれば、需要が急増した場合、直ちに生産を再開することができる。一方、法務部は、知的財産権侵害リスクを心配している。
この交渉は同じ会社で働いている社員間のものではあるが、前述の技術交渉でおこりがちな4つの問題をはっきり示している。