ブレストは「突っ込める」空気が大事

【高橋】一般的に、横の思考法が「拡散」、縦の思考法は「収束」と呼ばれているものですか。

【佐渡島】というより、拡散と収束をまとめて横の思考法でやり、収束したものを縦の思考法で意味を問いかけていくイメージですね。

【高橋】問いかけでもあり、突っ込みでもありますね。僕はどちらかというと、「率先して変なことをいうやつ」と思ってもらえているんですけど、それでも初めての現場では、「こいつ、すげえことを言うんじゃないか」と構えられちゃうことがあります。そうなるとブレストが機能しなくなるので、とにかく率先して超普通のことを言うか、めちゃくちゃなことを言うように心がけているんですよ。それでバカなやつだと思われる(笑)。

高橋晋平さん

【佐渡島】マンガ家と編集者の打ち合わせもそうです。編集者はマンガ家のアイデアを広げる係なので、マンガ家が絶対採用しないような極端な意見を言うのがいいんですよ。たとえば、次回全員死んじゃったらどうなります? とか。

【高橋】ああ、僕の役割と同じだ。

【佐渡島】ただ、役割に関してはケースバイケースの部分もあって、『ドラゴン桜』の場合は、僕ら編集者が「できるだけ現実的な勉強法が必要です」と主張して、作者の三田紀房さんが「そんなの面白くないじゃん」と超極端な意見を言っていました。それをストーリーに落とし込むために、僕らは「三田さん、そういう風に演出したいのであれば、こうすると現実的な勉強法になりますね」と言って、超極端に走った三田さんをちょっとだけ戻す。そんな感じで毎回の勉強法が決まっていました。そういう意味では、チームには常に極端なことを言う人と、戻す側の人と、それをまとめる人がいるのがベストですね。

【高橋】佐渡島さんは世間的には「カリスマ編集者」みたいに思われているじゃないですか。それはコルク社内でもそうだと思います。そうなると「この人の言うことは全部聞かなきゃ」と思われがちじゃないんですか。

【佐渡島】難しいところです。僕は社長なので、意思決定したあとの指示は聞いてくれないと困るんですけど、意思決定する前のことに関してはちゃんと議論が起きないと、会社として衰退していく。それもあって、今コルクラボではみんなタメ語でしゃべるようにしているんですよ。タメ語だとみんな突っ込んできます。先週は高校生の子が「佐渡島さんの文章は読点が多すぎるんだけど、なんで?」って聞いてきましたよ(笑)。

【高橋】おもしろいですね。そうした突っ込みが、企画を深めることに役立ちますね。

高橋晋平(たかはし・しんぺい)
クリエイター
1979年生まれ。2004年東北大学大学院情報科学研究科修了、バンダイに入社。「∞(むげん)プチプチ」など、バラエティ玩具の企画開発・マーケティングに約10年間携わる。2014年に退社し、株式会社ウサギ代表取締役に。近著に『一生仕事で困らない企画のメモ技(テク)』(あさ出版)がある。
 

佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
編集者
1979年生まれ。東京大学文学部を卒業後、2002年に講談社に入社。週刊モーニング編集部にて、『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、などの編集を担当。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。近著に『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. 現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ』(幻冬舎)がある。
(構成=稲田豊史 撮影=プレジデントオンライン編集部)
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