なかなか子供を授からず、夫婦関係がギクシャクする……。そんな先の見通せない「妊活」をやめ、別の選択肢を選んだ夫婦がいる。マンガ家の古泉智浩さんは、2年前、生後5カ月の男児を里子として預かった。不妊治療に600万円以上をつぎ込んでいたが、新たに迎えた「うちの子」の存在は、夫婦関係を一変させたという――。

「いつでも離婚すればいい」と思っていた

夫婦の関係は「子供の有無」に左右されがちだ。「子供がほしい」と願う夫婦にとって、「子供を授からない」というのは大きなストレスになる。一方で、子供が生まれても、「夫が何もしてくれない」「妻が子供にかかりきりだ」「2人だったときはうまくいっていたのに」……といった悩みを抱える夫婦もいる。そうした中で、マンガ家の古泉智浩さんは、「里親」として男児を育てることで、「嫌になったらいつでも離婚すればいいや」と思っていた妻との関係が改善したという。

古泉智浩『ウチの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(イースト・プレス)

古泉さんは、内向的な男性の心理をコミカルに描くことで知られるマンガ家だ。『青春☆金属バット』や『チェリーボーイズ』(共に青林工藝舎)など、実写映画化された作品も複数ある。タイトルからもうかがえるように、「童貞」や男性のルサンチマンを、ブラックなセンスでギャグに昇華した作品にはファンも多い。

そして古泉さんは、ひとりの子供の父親としての顔も持つ。現在3歳になる男の子は、生後5カ月で里子として古泉さん夫婦のもとにやってきた。2015年には、不妊治療のドン底から里子を預かり、子育てに奮闘する日々を赤裸々に描いたエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』(イースト・プレス)を刊行している。

「当時は、『どうせ俺のマンガの読者しか読まないだろう』って思って出版したんです。そうしたら、思った以上にいろんな人に読まれて、うれしい半面非常にうろたえました」

「とにかく子供が欲しくて結婚した」

作者自身も驚くほどの反響を呼び、昨年12月には続編『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(イースト・プレス)を刊行した。古泉家の「うーちゃん(※仮名)」は3歳になり、イタズラやワガママ盛り。すっかり「うちの子」としてなじんできたところに、児童相談所の職員に「特別養子縁組」を提案される。預かった子供を6歳未満で自分の家の籍に入れると、戸籍上でほぼ実子と同じ扱いになる制度だ。家庭裁判所の判断や実親の拒否などで成立しないケースもあるが、古泉さん夫婦の手続きはトントン拍子に進んでいき、「うーちゃん」の名字は「古泉」となり、戸籍上でも「うちの子」となった。

古泉さんは、そもそも子供がほしくて結婚したという。結婚当初から夫婦で6年間不妊治療にのぞみ、かかった費用は600万円を超えた。

「とにかくもう子供がほしくてほしくて。妻には非常に申し訳ないですが『子供を産んでくれたら誰でもいい』というくらいの切羽詰まった気持ちでの結婚でした。『産めるものなら自分で産みたい、男が産めたらよかったのに』と思うほどでした。それで不妊治療をしていたのですが、お金ばかりかかって、スッテンテンになってしまいました」