在宅介護ではなく、施設介護を選択するとなると、金額が大きく変わってきます。

弊社では、サービス付き住宅という老人ホームと在宅介護の中間に位置するような施設も運営していますが、家賃や食費込みで18万円から20万円、年間200万円はかかるので、家計的にはかなり厳しくなります。

特別養護老人ホームなどの介護保険施設は、国からの補助金もあって費用が安く抑えられ、大変人気があります。どこでも入居は200人、300人待ち。しかし、要介護3以上でなければ入居ができないことが明文化されました。

そうなると、有料老人ホームへの入居も考えなくてはいけませんが、その多くは月額の費用が30万円程度かかる高額の施設です。なかには月額20万円を切る施設もあるようですが、当然サービスの質は下がります。

不動産など資産を売却して有料老人ホームの入居費用にあてる方もいますが、なかなか希望額では売れません。また親御さん本人も、施設に入るより長年住み慣れたわが家での生活を希望される方が多いですから、在宅での介護を選ばれます。

結果として、面倒を見る息子や娘が、勤めていた会社を辞めざるをえない「介護離職」に追い込まれたりしています。

帰郷しても仕事が見つからず、それまでの年収を失ったうえで、親の年金で親子が生活したり、生活保護費でまかなっている方も珍しくありません。それでいて、在宅介護が必ずうまくいくとは限りません。もともと別居していたのが、介護が必要になって同居するわけですから、意見が対立することも多いですね。

介護を背負わされ、こんなはずじゃなかったという気持ちを、奥さんが親御さんのほうに向けてしまい、暴力をふるったり、暴言を吐いてしまうという事例も起きていて、市役所や区役所が間に入るケースもあります。

国も財源の問題があるので、特養をどんどん建てるよりは、「なるべく在宅へ」という方向で物事を進めています。状況は改善していません。

松田吉時
ケアリッツ・アンド・パートナーズ副社長。1979年生まれ。東京大学経済学部卒業。日本生命保険等勤務を経て2009年、ケアリッツ・アンド・パートナーズ合流。
 
(構成=金井良寿 撮影=初沢亜利)
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