定年退職を迎えた後、どんな老後をすごせばいいのか。今年リクルートワークス研究所が全国4.8万人の「労働実態」を調査した結果、65歳以上でも働ける人ほど幸福度が高いという実態がわかった。政府は「年齢に関わりなく働き続けられる社会」を目指しているが、定年制はそれに矛盾する存在ともいえる。課題はどこにあるのだろうか――。

高齢者就業は幸せをもたらすか

多様化するニーズへの対応や中長期的な人手不足などを理由として、高齢者雇用の拡充が急がれている。2013年4月施行の改正高齢者雇用安定法は、60歳定年後の就業希望者の雇用を企業に義務づけた。2017年3月にまとめられた「働き方改革実行計画」は、年齢に関わりなく働き続けられる社会の実現を強く訴えている。

その一方で、こうした動きに対する現役世代の不満が少なからず存在する。60歳定年というゴールに向かって、がむしゃらに働いてきたのに、いまさらそれを先延ばしされても、もはや働く気力や体力は残っていない。あるいは、マクロの労働需給や年金財政維持のために、個人に人生計画の変更を迫らないでほしい、ということかもしれない。

ここで、いま一度考えたいのは、「高齢で働き続けることが何をもたらすか」ということである。いまあるデータを用いて、働く人の視点から、その実像を明らかにすることは、現在の高齢者雇用の改善だけでなく、現役世代の定年後に向けた備えにもつながるだろう。このコラムでは、ささやかではあるが、その試みを展開したい。

高齢で働ける人は、生き生きしている

総務省「労働力調査2016年平均(速報)」によると、60~64歳の就業率は63.6%であり、政府目標(2020年67%、日本再興戦略2016)の達成も見えてきている。では、働いている人は、どのような実感を抱いているのだろうか。リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017」の結果を紹介しよう。

図表1は、「昨年1年間(2016年)に生き生き働くことができていたか」について、「あてはまる」から「あてはまらない」までの5段階で回答を得たものである。正規の職員・従業員に限定して年齢別に比較すると、65歳以上の正社員は、他の年齢階層に比べて、生き生きと働いていた割合が54.2%と高い。もちろん、65歳以降も継続就業する人は、そもそも健康で働く意欲が高い可能性がある。また、詳しくみると、生活のためにやむを得ず働いている人もいるだろう。しかし、これらを考慮したとしても、平均的にみて、生き生きと働く高齢者の割合が高いことは顕著である。