お金さえあれば、人生は安泰なのか。もちろん、そんなことはない。雑誌「プレジデント」(2017年6月12日号)の特集「お金に困らない生き方」では、人生の後半戦にやってくる5つの「爆弾」への備え方を解説した。第2回は「保険外治療」について――。(全5回)

想像以上に高かった“自腹”の費用

秋田県在住の会社員Aさん(55歳)の妻(53歳)が乳がんになったのは5年前のこと。

地元の病院で罹患したのがわかると、本格的な治療や手術、術後の通院は東京の有名な大学病院で受けた。「ちゃんとした病院がいい」。妻が、より最新の設備が整い乳がんの症例が多い医師がいる病院を切望したのだ。

幸い手術は無事済み、現状、転移は認められていない。だが、誤算だったのは、“自腹”の費用が想像以上に高かったことだ。

「術前の治療費や手術費、術後の化学療法(抗がん剤など)などは健康保険(自己負担3割)や高額療養費が使えたので費用の負担を抑えられました。でも、放射線療法の一部を高度先進医療である重粒子線治療にしましたが、保険の適用対象外でした。また、負担が大きかったのは、交通費です。治療や手術、検査のたびに仕事を休み東京まで妻に同行したので、往復の新幹線代は2倍です。積もり積もって計300万円はくだりません。さらに妻の入院時の私の宿泊費や、食事代、病院の差額ベッド代などもバカになりませんでした。今後も定期的な検診のたびに上京するので、交通費などはこれからもかかります」(Aさん)

術後、妻は乳房を再建(約120万円)。最近は保険適用になるケースもあるが、妻のケースは全額負担だった。これに加えて、脱毛対策のウィッグや術後のむくみを解消する弾性スリーブ、弾性ストッキング、切除後の傷をカバーする下着といった女性ならではの対策費、さらにがん再発予防を期待できるという健康食品やサプリメントなど「保険外費用」が多々あった。

家計的に意外に響いたのは、妻のパート収入がなくなったことだ。月収8万~9万円だったが、治療に専念するために辞め、術後もストレスをかけない生活を送るべく仕事に就いていないので、世帯収入は年100万円近く減ったことになる。「妻の命が最優先なのは当然ですが、本来貯まっていた額は1000万円くらい。子どももまだ大学生でお金がかかりますので、老後のための貯金計画は完全に崩れました」(同)