会社のヒト・モノ・カネを振り分けるのは「マネジャー」の仕事です。一方、「リーダー」の仕事は、ビジョンを描き、社員のベクトルをあわせること。日本ではどちらも管理職の仕事だと捉えられがちですが、2つの違いを知ることで仕事のやり方は大きく変わります。人材開発のプロが、これから3回にわたって「リーダーシップ」について解説します。(前編、全3回)

AI時代にますます必要なリーダーシップ

「働き方改革」に苦戦している企業が多いようです。実際のところ、仕事の量を減らさずに、残業時間を減らすのは難しいでしょう。ただし近い将来、こうした状況を「AI(人工知能)」が変えてくれるかもしれません。

というのは、AIは、これまで多くの時間がかかっていた「判断業務」のサポートに役立つと考えられているからです。たとえば、ある投資案件にゴーサインを出すのか、出さないかという大事な判断を想定しましょう。人間の場合、情報収集や分析には膨大な時間がかかります。ところが、AIは大量の情報を読み込み、そこからすばやく相関を見つけ出すことができます。判断の前提となるシナリオを複数示すことは、人間よりAIのほうが得意です。人間はAIの分析をもとに、判断だけを行えばいいわけです。

こうしたAIの発達を背景に、「AIが人間の仕事を奪う」という予測があるようです。心配はいりません。AIにはできそうにないスキルがあるからです。それが「リーダーシップ」です。

そう聞くと、「リーダーシップってスキル? 自分で磨けるものなんだっけ?」と意外に思う人もいるかもしれません。米国を中心にリーダーシップの研究は経営学の大きな分野で、その成果としてリーダーシップは後天的に学ぶことができると結論づけられています。それも、特訓形式で汗を流さずとも、日々のちょっとした努力で驚くほど身につくものなのです。

リーダーシップとマネジメントは別物

ではここで、代表的なリーダーシップ論として、ハーバード大学のジョン・コッター教授が1980年代後半に打ち立てた理論を紹介しましょう。その理論は、「リーダーシップ」と「マネジメント」を分けたところに特徴があります。