実はこの理論には裏話があり、そのヒントが発表された時期と関係します。1980年代と言えば米国経済が絶不調の時期。多くの米国人が、「一体何が間違っているのか?」という問題意識を持っていました。その答えが、リーダーシップ。つまり、これまでの延長線上で考えて、粛々と効率的にビジネスを行うだけでは米国経済の復活は望めない、むしろ大規模な変革が求められているのだと結論づけ、そのためにそれまで重視されていた管理のためのマネジメントよりも、大規模な変革を実現する役割、すなわちリーダーシップを重視するようになったのです。これを念頭に、リーダーシップとマネジメントの違いを記した図表を眺めてみると、「米国経済回復のためにはこれまでとは違うことをやるのだ」という迫力が伝わってきます。
さてここで、冒頭の働き方改革とAIの話に戻りましょう。実はAIが得意としているのが「マネジメント」の分野です。たとえばマネジメントには「必要な資源を配分する」というテーマがあります。大量の情報を分析し、すばやく最適解を導くのは、人間よりAIのほうが得意です。
一方、リーダーシップが実行すべきことは「動機付けと鼓舞」とされています。コッター教授の定義によれば「障害や組織の壁を乗り越えるべく人材を勇気づける」、「組織のメンバーに承認を与える」といった仕事であり、すくなくとも短期的にはAIでは対応できないでしょう。このため「AIに仕事を奪われるのではないか」といった心配を持つ人には、リーダーシップを身につけることをお勧めしているのです。
リーダーシップを「試着」する
ただ、リーダーシップには苦手意識を持っている人が多いようです。「目立つのが嫌」、「失敗したときのリスクが大きい」といった理由を聞きます。そんな方にお勧めしたいのが、リーダーシップを「スタイル」と捉えるアプローチです。リーダーシップにはいろいろなスタイルがあり、「最もすぐれたリーダーシップのあり方」があるわけではないのです。
スタイルという言葉は、「自分に似合う服装かどうか」といった場面でも使うと思います。同じように、仮にひとつのリーダーシップ・スタイルを試してみて、自分に合わなければ止める。そんな「試着」のように考えると、いろいろなスタイルにも気軽に取り組めると思います。