北朝鮮が次のテーマとしているのは、固体燃料式のミサイルの開発だ。現行の「火星」シリーズはいずれも液体燃料式の弾道ミサイルで、構造上輸送時の振動に弱く、車載型のタイプであっても移動速度が制限される。固体燃料方式ではそうした制限が緩和されるため、短時間で長距離を移動することが可能になる。攻撃命令が下されてから発射までに要する時間も、液体燃料の数時間から、わずか数分に短縮できるため、他国の偵察衛星や偵察機などで発射を事前に察知されにくくなる。

2016年8月にテスト発射された北極星1号、続いて2017年2月に発射された北極星2号はこの固体燃料式であり、すでに射程は2000km以上を実現したと推測されている。ロケットモーターの生産技術が確立され、同時にミサイル誘導技術が向上すれば、今後は保有するすべてのミサイルを固体燃料式に置き換えようとするはずだ。これが実現すれば、アメリカ軍の偵察能力をもってしても事前に発射の兆候を捉えることは難しくなり、撃たれてからの受け身の戦術を強いられることなる。

発射動向の隠蔽テクニックも向上

発射動向の隠蔽について、北朝鮮は並々ならぬ注意を払っている。2017年7月28日の弾道ミサイル(火星14号)発射の際には、深夜に突如として発射が行われたため、アメリカ軍ですら把握に時間を要したようだ。通常、こうしたミサイルが発射される時には、アメリカ軍はかなり前もって沖縄の嘉手納基地から弾道ミサイル観測機(RC-135Sコブラボール)を離陸させ、発射に備える。だがこのときは、ミサイル発射の小一時間前になって慌てて離陸したもようで、どうやら観測には間に合わなかったようだ。

弾道ミサイル開発とその運用、さらに恫喝のタイミングを振り返ると、北朝鮮の狡猾さが際立つ。独裁国家らしく、体制の維持という最大の目的のために、国家が一丸となって知恵を絞るその集中力はすさまじい。独自の進化を遂げる火星一桁シリーズの短~準中距離ミサイルは、生産ピッチを上げて備蓄数を増加させるだろうし、米本土を狙う火星二桁シリーズは、射程の大幅延伸と多弾頭化をはかっていくだろう。展開能力と即応性、発射動向の隠蔽性に優れる固体燃料式ミサイルの開発も、同時に進んでいくはずだ。北朝鮮のミサイル開発力、そしてその攻撃力を、決して甘く見てはならない。

芦川 淳(あしかわ・じゅん)
1967年生まれ。拓殖大学卒。雑誌編集者を経て、1995年より自衛隊を専門に追う防衛ジャーナリストとして活動。旧防衛庁のPR誌セキュリタリアンの専属ライターを務めたほか、多くの軍事誌や一般誌に記事を執筆。自衛隊をテーマにしたムック本制作にも携わる。部隊訓練など現場に密着した取材スタイルを好み、北は稚内から南は石垣島まで、これまでに訪れた自衛隊施設は200カ所を突破、海外の訓練にも足を伸ばす。著書に『自衛隊と戦争 変わる日本の防衛組織』(宝島社新書)『陸上自衛隊員になる本』(講談社)など。
(写真=AFP=時事)
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