北朝鮮のミサイル発射をめぐり、さまざまな情報が飛び交っている。無責任な分析を退けるためには、まず前提条件を正確に把握することが必要だ。防衛ジャーナリストの芦川淳氏は「その攻撃力を、決して甘く見てはならない」という。日本の防衛力を踏まえながら、北朝鮮のミサイルの「本当の実力」を分析してみよう――。
8月29日、北海道上空を横切って飛行した北朝鮮の中距離弾道ミサイル「火星12号」の打ち上げの模様(写真=朝鮮通信=時事)

「体制維持」を目標にした周到な開発計画

北朝鮮の核戦力開発が加速している。8月29日は我が国の上空を飛び越えて中距離弾道ミサイルの発射実験を行い、続く9月2日には、弾道ミサイル用に小型化を目指す核兵器の実験を行った。

こうした北朝鮮の行動についてまず確認しておきたいのは、ことの本質が「北朝鮮の国家体制維持」、すなわち「金日成、金正日、金正恩と続く金一家による独裁体制の維持」という問題に尽きるということだ。北朝鮮のとる国家戦略はすべてがこの一点に集中し、軍事的な手段やそれにぶら下がる戦術も最終的にはそこに帰結する。弾道ミサイルや核兵器の開発、他国に対するサイバー攻撃、麻薬ビジネス、兵器輸出など、すべてがそこにつながっていることを、いま一度、しっかりと認識しておきたい。

その認識を背景に、現在、北朝鮮が開発を推し進める各種ミサイルの種別とその位置づけについて考えてみたい。

主力は短距離~準中距離のミサイル

北朝鮮が開発・保有するミサイル戦力の主力は、旧ソ連の短距離弾道ミサイルR-17(西側での呼称は「スカッド」)をベースにした、「火星」(ファソン)シリーズの一桁番台だ。原型となったスカッドの射程はおおむね500km程度、ペイロード(運搬可能な弾頭の重量)は500kg~1tである。液体燃料を用いながらもメンテナンスが容易で、荒い運用にも耐え、安価であることが大きな特徴だ。北朝鮮は70年代中盤にこれを入手すると、リバースエンジニアリング(編集部注:既存の製品を分解・解析し、その動作原理や製造技術を取得すること)によって国産化し、中東諸国への輸出を通じて外貨獲得の手段とした。

北朝鮮では、ベースモデルのスカッドBを「火星3号」、そのマイナーチェンジ版で射程を600km程度まで伸ばしたスカッドCを「火星5号」、さらに射程を1500~2000kmまで伸ばしたものを「火星7号」と呼ぶ(「ノドン」の名でも知られる)。また、火星5号や火星7号と発射機を共用しつつ、約1000kmの射程と高い精密誘導能力を実現したスカッドERも開発・保有している。