これら短距離~準中距離ミサイルの一群を、北朝鮮が実際にどのくらい実戦配備しているかは不明だが、一説には1000発を超えるとも言われ、その数は年々増加していると推測される。地下に隠蔽した工場で生産ラインが組まれ、月産で10発程度の生産数を維持しているという説も、そう荒唐無稽とはいえない。
短距離~準中距離の弾道ミサイル群は、北朝鮮による先制攻撃が行われる場合、第一波の攻撃の主軸になるはずだ。釜山、浦項、鎮海といった韓国南部の軍事的要衝に対し、通常弾頭による飽和攻撃(編集部注:相手の迎撃能力を超える数のミサイルを発射すること)が行われる可能性が高い。数十発から数百発もの弾道ミサイルによる攻撃によって、韓国軍は退路を断たれると同時に、日本への連絡線も遮断されるだろう。
また日本においても、在日アメリカ軍基地や、アメリカ軍への後方支援に関わる自衛隊の諸施設が重大な被害を受ける可能性がある。湾岸戦争のときにように単発でポツポツ撃ち込まれる程度なら、イージス艦搭載のSM-3ミサイルや、航空自衛隊のPAC-3ミサイルによる迎撃対処も十分に可能だが、広い対象地域に向かって一度に多数のミサイルを発射されれば、現在の自衛隊の防空体制ではお手上げとなる。
これを封じるには約50基とされるミサイル発射機を先にたたくしか方法はないが、現状では法的にも装備的にも、自衛隊がそれを実行することは極めて困難だ。したがって、わが国に対する北朝鮮の短距離~準中距離弾道ミサイルの脅威度は、非常に高いと考えられる。
米本土に届く「火星14」の脅威
一方、このところ話題になることが多いのが、「火星10号(ムスダン)」「火星12号」「火星14号」などの、より射程の長い弾道ミサイルだ。北朝鮮当局がIRBM(中距離弾道ミサイル)やICBM(大陸間弾道ミサイル)であると主張するこれら「火星」10番台のミサイルは、いずれもスカッドより射程の長い旧ソ連製の液体燃料式ミサイルR-27に独自の改良を加えたもので、元がSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)とは思えないほどの高度な進化を遂げている。
エンジンの改良や搭載燃料量の拡大の手法には、イランの協力が見え隠れする。現代の核搭載可能なミサイルでは標準的な、弾頭部だけが分離して大気圏に再突入する構造にも、技術的なめどをつけたようだ。あとはこれに500kg以下、できれば300kgまで小型化した核兵器の搭載が可能になれば、立派に米本土を狙うことができる核ミサイルの完成である。
2017年8月29日に北海道を飛び越える形で発射されたのは、発射角や飛距離からみて火星12号とみられている。2017年7月28日に発射された火星14号(2度目の発射)は、高い発射角で打ち出すロフテッド軌道での実験を行い、47分にわたる飛行で、最大高度3500km以上、水平飛行距離約1000kmを達成した。これを、飛距離を優先した最小エネルギー飛行に置き換えると、射程はおよそ8000~9000kmに達するとみられる。