失敗した部下を怒鳴りつける上司の「胸の内」

たとえば、大きな失敗をした部下を怒鳴りつける上司の胸中に、部下の失敗のせいで会社幹部から叱責されたらどうしよう、責任を取らされて飛ばされたらどうしようという恐れが潜んでいることは少なくない。

つまり、恐れているからこそ怒らずにはいられないわけだが、この恐れをかき立てるのが被害者意識である。

というのも、被害者意識が強いほど、理解してもらえないとか、ないがしろにされていると感じやすく、「うまくいかないのではないか」「状況がさらに悪くなるのではないか」という恐れに常にさいなまれるからだ。

▼上司、同僚、妻……誰も「僕のつらさをわかってくれない」

自分が怒りっぽいことに悩んで相談にやって来たある男性会社員は、次のように私に訴えた。

「認めてもらえないのではないか、ぞんざいに扱われるのではないかと不安に感じて、人と接するのが怖い時ほど怒ってしまうんです。でも、これは僕がひどい目にばかり遭っているからなんです。職場の上司は理解してくれないし、同僚も足を引っ張るやつばかり。妻も僕のつらさをわかってくれない」

自分自身の怒りっぽさを他人のせいにしており、被害者意識が強い印象を私は受けたが、「怖い時ほど怒ってしまう」という言葉は本質を突いている。強い被害者意識を抱いているほど、恐れにさいなまれ、怒らずにはいられないのが人間である。

しかも、被害者意識と恐れが強いほど、怒りが激しくなり、“加害者”とみなす相手に罰を与えることを正当化する。これは、「自分は理不尽な仕打ちを受けた被害者なのだから、少々罰を与えても許される」という思い込みによる。