元管理職と若手社員、正社員と非正規、ワーママと独身女性……。双方が、「自分だけが割を食っている」と怒り、陰で相手の悪口を言い、ときに罵る。「自分には、”加害者”である相手に鉄槌を下す権利がある」。なぜそんな心理を抱くようになるのか。精神科医の片田珠美氏が解説する。

自分だけが割を食っていると考える人たち

企業でメンタルヘルスの相談に乗っていると、「自分だけが割を食っている」と被害者意識を抱いている人が多いことに驚く。

たとえば、役職定年制を導入している会社でポストオフになった元管理職である。一定の年齢に達すると、管理職から外れて平社員と同じ仕事をすることになるのだが、これがなかなか受け入れられないようだ。

「30年以上も会社のために頑張ってきたのに、肩書も権限もなくなり、おまけに給料も下がった」

そんな怒りが募り、モチベーションを保つのが難しい。中には、ポストオフを「もうあなたには期待していません」という会社からの肩たたきと受け止めて、「しょせん頑張っても同じだ」と意気消沈する元管理職もいる。

▼元管理職vs.若手社員 怒りの源はいずれも「自分は被害者」

困ったことに、ポストオフになった元管理職はしばらく現場の仕事から離れていたので、慣れるまでに時間がかかる。また、手の動きが遅いので、パソコンを使用した書類の作成などは、1日にこなせる量が若手社員と比べると少ない。そのうえ、モチベーションも低いのだから、年下上司や若手社員の目には「働かないオジサン」のように映ることもある。

そのことを面と向かって元管理職に言うわけにはいかず、若手社員は「働かないオジサンのせいで、こっちの仕事が増えて大迷惑だ」と陰口をたたく。一方、元管理職のほうも「これまでは管理職でバリバリやっていたのに、こんな誰でもできるような仕事なんか、やってられるか」と愚痴をこぼす。