情報通信関係に勤務し、昨年定年を迎えたA氏。40代後半から始まった給与の減額は60歳の定年時まで続き、年収はピーク時の半分まで減少した。5年間の定年延長も選択できたが、業務内容はほぼ同様で給与は退職時の半分と会社側に言われ、「自分で仕事を探そう」と、退職の道へ踏み切った。
見込み違いだったのは、会社の業績が悪化していた時期に退職金制度の変更が行われたため、考えていたよりも退職金がはるかに少なかったこと。それでも何かしら仕事に就けば老後の生活はなんとかなると思っていたが、職業安定所や就職媒体、知人のツテなどを使っても、いまだに職は見つかっていない。A氏は、「年金だけでは、老後の生活が成り立たない。いつか、生活保護を受けることになるかもしれない」と暗い表情で話す。
これから、こうした「貧困高齢者」が爆発的に増加しそうだ。2016年末には、生活保護受給世帯の半数以上が高齢者世帯となっている。そして、今後ますます、生活保護を受給する高齢者が増加すると見込まれている。
「生活が苦しい」高齢者世帯が過半数超え
「高齢者は裕福だ」というイメージはもう間違いだ。「団塊の世代」を分水嶺として、前後で状況は大きく変わる。特に1950~60年代前半に生まれた世代は、90年代のバブル経済崩壊以降、国内外の経済危機の局面で減給されたり、リストラの対象となったりしたため、老後資金を十分に蓄えられなかった人が多い。
厚生労働省(以下、厚労省)の「国民生活基礎調査」を見ると、65歳以上の高齢者世帯の生活が、年々苦しくなっていることがわかる。生活意識について「大変苦しい」と「やや苦しい」の合計は、95年に37.8%だったのに対して、99年に46.1%、04年には過半数の50.0%と上昇し続け、10年後の14年には58.8%に達し、過去最悪となった。15年、16年にはやや改善しているが、「ややゆとりがある」「大変ゆとりがある」と答えた人たちが増えていて、2極化していることがうかがえる。
同じく厚労省の「国民年金被保険者実態調査」によると、40年代後半生まれの団塊の世代では年金未納・免除者率が30%程度であるのに対し、それ以降は、50年代前半生まれ(65歳前後)で35%前後、50年代後半生まれ(60歳前後)で45%前後、60年代前半生まれ(55歳前後)で40%台後半と上昇する。保険料を納めていないのだから、受給できる年金額はわずかでしかない。年金受給額が最低生活費に満たないのであれば、「生活苦」を感じるのは当然だろう。