2015年、ジャーナリストの後藤健二と湯川遥菜がイスラム国に拉致され、無残に殺される事件が起きた。前年の12月初めには、後藤の妻宛てにイスラム国から身代金を出せというメールが届き、外務省は遅くとも12月中にはこの事実をつかんでいた。

「安倍首相よ、日本の悪夢が始まる」

当然、このことは官邸にも伝えられた。なぜなら官僚は自らがリスクを負うことを嫌い、リアルタイムで大臣に情報を伝えるのが習性だからである。だが、政府側は知らなかったという世論操作を行い、1月に安倍首相は予定通り中東歴訪の旅に出た。

そしてエジプトで「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISIL(イスラム国)がもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」というイスラム国を挑発するような問題演説を行ったのである。

これは元経産官僚だった古賀茂明が『日本中枢の狂暴』で指摘しているように、後藤ら2人の身に危険が迫っていることを十分に知っていたのに、「まるで、日本が、イスラム国との戦いのために軍事支援を行うと誤解するような表現」をしたのである。

このメッセージにイスラム国はすぐ反応して、以下のようなメッセージを公開した。

「安倍総理大臣よ、勝てない戦争に参加した向こう見ずな決断によって、このナイフは後藤健二を殺すだけでなく今後もあなたの国民はどこにいても殺されることになる。日本の悪夢が始まる」

「日本外交史に残る大失態」

なぜ、エジプトをはじめ、ヨルダン、イスラエルなどアメリカの盟友国ばかりを回ったのだろうか。古賀は「日本外交史に残る大失態」だと難じている。

外務官僚からすれば、こうした演説は無用な誤解を生む表現だから完全にNGであるはずだが、官邸が闇雲に突っ走ったのだ。しかも「本来軍事支援でないのに、あたかも軍事支援が含まれているかのように見せかけた……逆な意味でも、詐欺的な発言である」(古賀)。

このメッセージはイスラム国に悪用され、後藤、湯川が殺されただけでなく、日本はアメリカと組んで中東まで出てきて戦争に参加したと宣伝され、外国にいる日本人同胞たちの安全をも危険にさらしたのである。

その後も安倍は、2人を救出するための現地本部をトルコではなく、アメリカが日本政府の動きを見張ることのできるシリアのアンマンに置いた。そのことも、人命よりもアメリカにどう見てもらえるかしか考えない「安倍の狂った願望を実現するために組み立てられた謀略だといってよい」(同)。

政治哲学は「国民はバカである」

古賀によれば、安倍の政治哲学は「国民はバカである」というもの。怒っていても時間が経てば忘れる。他のテーマを与えれば気がそれる。ウソでも繰り返し断定口調で叫べば信じる。

今回も、森友学園や加計学園問題から国民の目をそらそうとして、突然、憲法改正を打ち上げたのではないか。そう考えると辻褄が合う。

だいぶ前になるが、阪神にいた江本孟紀投手(現在は野球評論家)が「ベンチがアホやから野球でけへん」という発言をして大問題になったことがあった。

今の自民党の若手議員たちは、安倍首相が憲法を蔑ろにして安保法制法を強引に成立させ、トランプ米大統領に猫なで声ですり寄って行く姿を見ているから、政治なんてこんなもの、議員でいる間にいいたいことをいい、カネ儲けしようという輩ばかりになってしまうのだ。

これが安倍一強といわれている自民党の真の姿である。したがって暴言議員はまだまだ出てくること間違いない。

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