ゲームの視点で考える、これからの戦い方
この本のなかでマコビー博士は、アメリカ大企業の管理職250名に対してインタビューやロールシャッハテストを行い、近代のビジネスマンを大きく4つの類型に分けました。
まず1つ目の「クラフツマン」タイプは、主にものづくりの専門職やエンジニア、研究職に多く見られます。彼らは営業職や起業、組織内での勢力争いといった変化よりも、落ち着いた環境で自身の研究や開発に打ち込むプロセス自体を重視します。実直で職人気質な態度は見事ながら、現代社会では時に組織内でうまく立ち回るスキルをも学ばなくてはならないというジレンマが生まれています。
2つ目は「ジャングル・ファイター」タイプ。こちらは有事に強く、強力なイニシアティブを持ち組織を率いていくゴッドファーザー的人物とされています。ただ、ジャングルにおけるライオンや狡猾な狐にも例えられるこのタイプは、常に「勝つか負けるか」「生きるか死ぬか」という熾烈な環境で自らの力を誇示する傾向があるため、チームワークが重視される現代の組織では、成功に結びつく可能性は低いとされています。
3つ目は「カンパニー・マン」。中間管理職に典型的に見られるタイプとして、個人の野心や競争心、冒険心よりも、組織に尽くし、調和や忠誠心、責任感を重視する人物像として描かれています。「ジャングル・ファイター」が狩猟民族に多く見られるタイプなら、農耕民族である日本人に多く見られるのは、この「カンパニー・マン」タイプかもしれません。
そして最後に登場するのが、この本のタイトルにもなった「ゲームズマン」です。彼らはアイデアやチャレンジ精神に富み、変化や進歩を好みます。昇進や出世、起業や転職、そして人間関係など人生にまつわるあらゆることを一種の「ゲーム」としてとらえ、手持ちのカードを繰り出し、駒を進めていきます。個を重視し競争心を持ちながらも、適度に周囲との協調性も育む。挑戦が結果に結びつくことに一番の喜びを感じるタイプであり、マコビー博士はこれからのビジネスを率いていく強力な人物像として期待しています。
これらのタイプについて博士は詳細な調査結果を記しており、若かりし日の私は、自分はどのタイプだろうと思いをめぐらせながら読んだものです。いずれのタイプも強みと弱みがあること、どれか1つのタイプだけで組織が回るわけではないことは明らかです。
また、これらの4タイプはあくまで理念的なものであり、通常の人間は各要素を掛け合わせた複雑な人物像を形成しているもの。目の前にいる人物を、単純にこの4タイプに固定化することはできません。しかしそうはいっても、自分も含めて人間の核となる要素を理解する1つの手掛かりにはなり、組織で適材適所を考えるうえでも、また、人々が働くに際しての動機付けや課題を明らかにするうえでも、本書は参考になります。
「ゲーム」という言葉は、日本では「不真面目」「遊び」と連想されがちですが、海外では仕事や人生、政治を「ゲーム」に例えることは少なくありません。仕事や人生をゲームとしての観点から眺めると、そこには駆け引き、戦略、挑戦、努力、協力、協調、勝負といった切り口が見えてきます。複雑な事象を、一度、シンプルにとらえなおしてみることで、世の中への興味が増し、理解が深まるはず。こうした方法論は、例えばマクロ経済学の分野でも採用されています。複雑な経済指標を単純なモデルとしてとらえて分析し、予測を立てていくのです。
人口減少期を迎える日本では、これまでのような人海戦術で勝負するのは不可能です。限られた現役世代がどのように戦えば、世界に発信できる魅力ある新商品やアイデアを生み、かつ人生を豊かなものにしていけるのか。「ゲーム」の観点から、楽しんで学べることも多いのではないでしょうか。
1952年生まれ。カイロ大学文学部社会学科卒業。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』などでキャスターとして活躍。92年政界に転身し、環境大臣、防衛大臣などを歴任。2016年、東京都知事に就任。