がんは早期発見、早期治療が一番。そう考える向きは多いだろう。だが、場合によっては「早期発見」が仇になることもあるという。国立がん研究センターがん予防・検診研究センター検診研究部長の斎藤博氏が指摘する。

さらに言えば、たとえ発見率が高い検診法であっても、がんの種類によっては無駄な治療を招くおそれがあり、そうなれば患者は治療に伴う不利益を被らなくてはならない。私たちは「精度の高い診断検査=いい検診法ではない」ことを理解したうえで、がん検診の行列に並ばなければならないのだ。「一般の方はつい、発見率が高いがん検診ほど効果が大きいと考えてしまいがちですが、それは正しくありません。なぜなら、がん検診の目的はあくまでも対象者のがん死亡率を下げること、つまり、がんで亡くなる危険を減らすことです。しかし、検査の精度が高く発見率が高くても、必ずしも死亡率が下げられるわけではないのです」

以下、がんの種類ごとにがん検診の「新常識」を見ていこう。

前立腺がん

まずは前立腺がんだ。前立腺がんのスクリーニング検査として広く行われているのがPSA検査(タンパク質の一種PSAの血中値を調べる)。採血による簡単な検査だが、がん発見率が高いために一般には「いい検診法」と見られている。だが斎藤氏によると「科学的根拠がなく、効果はあるとしても小さい。一方で不利益が大きい」。

事実、国は死亡率減少効果の証拠が不十分として推奨していない。米国予防医療作業部会(USPSTF)も12年5月、全年齢の男性に対するPSA検診は推奨しないとの勧告を公表した。PSA検診による死亡率の減少がごくわずかか、まったくない一方、精密検査で誘発される感染症や発熱、一時的な排尿障害などの不利益が利益を大きく上回ると判断されたためだ。

また、前立腺がんは進行がゆるやかなものが多く、大半は死亡原因にならず治療の必要はない。ところが検診で見つかると治療せざるをえないため、高齢者ではとくに治療による不利益が大きいと指摘されている。

「国内でも針生検(針を用いた組織採取)を行うと、頻度は低いものの重篤な前立腺炎を発症し、なかには死亡する例があることも報告されています。PSA検診を実施している自治体や医療機関は、こうした不利益があることを事前に説明するべきです」(斎藤氏)