3月30日、子宮頸がんワクチン(以下、HPVワクチン)の接種後、痛みなどの症状を発した10~20代の女性12人が国と製薬企業2社に対し、損害賠償を求める集団訴訟を起こす方針を明らかにした(雑誌掲載当時。現在公表人数64人)。近く東京、大阪などの地裁に提訴する。ワクチン行政に不信感を募らせた結果で、訴訟が成立すれば世界初の事態となる。
HPVワクチンは、子宮頸部に発生するがんの主要因であるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を予防する。
日本では2013年4月から小6~高1女子を対象に定期接種(予防接種法による全額公費負担の接種)を開始。しかし、ワクチン接種後に全身の痛みやしびれ、記憶障害などの訴えが相次ぎ、同年6月に接種の積極勧奨を中止した。
その後、日本産婦人科学会、日本医師会などが積極勧奨の再開を求め、WHO(世界保健機関)が「ワクチンの接種機会を奪うことで、真の被害をもたらす」と強い口調で日本のワクチン行政を批判する異例の事態に陥ったが、勧奨再開の目処は立っていない。
子宮頸がんは主に20~30代に発症するがんだ。子宮頸がん検診の効果で死亡率こそ下がったが、罹患(発症)率は増加傾向にある。「子宮頸がんは妊娠・出産世代に大きな影響を与える。罹患率の減少を指標に予防策を考えるべき」(産婦人科医)という声も多い。
世界的には07年から導入され、接種開始3~4年が過ぎた11年以降、HPV感染率の減少に加えて豪州、英国、米国などから子宮頸がん前がん病変の減少が報告されている。
性感染症である以上、男性にもがん化リスクはあり、豪州では26歳以下の男性に対するHPVワクチン接種を承認。14年から12~13歳の児童・生徒を対象に学校での定期接種を開始した。
日本での一連の問題を受けて、欧州医薬品庁が改めてHPVワクチンの安全性を評価。昨年末、「因果関係なし」との結論が出されている。日本では厚生労働省研究班の主導で調査研究を進めている。遺伝子異常から身体表現性障害まで様々な仮説が議論されているが、現時点でHPVワクチン接種との明確な因果関係が証明された研究報告はない。
ワクチン接種の目的は健康な人間がリスクを分け合い、コミュニティ全体を疾病の脅威から守ることだ。だからこそ被害者の訴えに真摯に向き合う一方で、ワクチン接種の意義を冷静に検討する必要がある。積極勧奨の中止、という曖昧な態度は国内外の不信感を募らせる。いっそ「定期接種」を取り下げ、一から受益と危険性の議論を行うべきだろう。