リスク評価検診は世界的な流れで、従来の胃X線検査でも胃粘膜の状態からピロリ菌感染の有無を診断する試みが始まった。ただ、診断画像の質と読影医の力量に依存する面が大きく、精度と実効性には疑問が残る。
今のところ、国は死亡率減少について証拠不十分との理由でABC検診を推奨していない。しかし、すでに1割以上の自治体が独自に採用している。課題は検査キットの規格統一やA群の中のグレーゾーン(実はピロリ菌感染歴あり)の取り扱いだ。これまでにもA判定例からのがん発症例が報告されており、その多くは受診者がピロリ菌除菌を受けたことを忘れてしまい、問診で申告しなかった、実はE群だった例。受診者の理解や、検査の精度を上げる努力が期待される。一方、ABC検診は簡単な血液検査で明確にリスク評価ができ、X線被曝やバリウムによる腸管閉塞、腸管穿孔(孔があくこと)など偶発症の不利益がない点が大きなメリット。内視鏡検査の優先度を決めることで、内視鏡医不足に悩む地域でも合理的で効率的な対応が可能になる。
東京都目黒区では08年度にABC検診を導入。08~12年度の5年間にABC検診を受けた約3万人のうち、内視鏡検査を経て胃がんと診断されたのは74人、発見率は0.24%。このうち早期がんは53人で71.6%を占めた。
同時期に従来の胃X線検査を受けた約9600人で胃がんと診断されたのは6人、発見率は0.06%。早期がんは1人、16%だった。
ABC検診の早期がん発見率は明らかに高い。胃がんは治療法が確立しており、早期発見は死亡率の低下に直結すると思われる。
日本胃がん予知・診断・治療研究機構の三木一正理事長は「内視鏡検診が推奨されたことで、ABC検診普及への道筋は開けた」とし、ABC検診の定着による胃がん死の速やかな減少に期待を寄せる。
居住地域の自治体検診にABC検診が採用されているか否かは、行政からのお知らせ、ネット等で確認可能だ。
さいとう・ひろし●国立研究開発法人国立がん研究センターがん予防・検診研究センター検診研究部長。1952年生まれ。群馬大学医学部卒業。
みき・かずまさ● 認定NPO法人日本胃がん予知・診断・治療研究機構理事長、東邦大学名誉教授。1968年、東京大学医学部卒業。