「加熱式たばこ」日米英三つ巴の戦いへ

「加熱式たばこ」で出遅れていた日本たばこ産業(JT)が、今年6月から積極攻勢をかける。先行して昨年4月に全国販売を始め、国内で「一強」となっている「iQOS」(アイコス)の勢いを止められるか。JTは巻き返しのために数百億円という大型投資を進めているが、その動向に注目が集まっている。

「マールボロ」が消えるかもしれない――。3月はじめ、フィリップ・モリス・ジャパンのポール・ライリー社長がこう話すと、会場がどよめいた。フィリップ・モリスはたばこ市場の世界最大手であり、マールボロは紙巻きたばこの世界的ブランドだ。だが同社は、加熱式へのシフトを鮮明にしている。発言があったのは、「煙のない社会を、ここ日本で」という新企業ビジョンの発表会だったとはいえ、紙巻きたばこからの「撤退宣言」とも受け取れる内容で、業界関係者に衝撃を与えた。

フィリップ・モリスが昨年4月に全国販売を始めた加熱式たばこ「アイコス」の販売台数は、すでに300万台を越え、加熱式で「一強」となっている。同社によると、アイコスのシェアは、今年1月時点で紙巻きを含む国内たばこ販売本数の7.6%にまで拡大している。

健康志向を背景に、紙巻きの市場が縮小傾向にあるのに対し、加熱式は業界待望の成長市場だ。加熱式では、たばこの葉を燃やすのではなく、たばこのスティックやカプセルを専用の器具に入れて加熱し、蒸気を吸ってニコチンを摂取する。煙が出ず、特有のにおいも少ないため、急速にシェアを伸ばしている。

世界第2位の英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)も昨年12月、日本での加熱式の成長性に着目し、世界で初めて加熱式たばこ「glo」(グロー)の販売を仙台市で開始している。

一方、紙巻きで国内最大手のJTは、加熱式では完全に出遅れた。JTが加熱式でフィリップ・モリスの後塵を拝する原因は自ら招いたに他ならないからだ。JTは昨年3月、加熱式の「プルーム・テック」を発売したが、生産が追いつかず、1週間で出荷停止に追い込まれた。現在は、福岡市とネット販売のみの限定販売にとどまっている。加熱式の人気ぶりを読み違えた格好だ。