ニューバランスの原点は、アーチサポートや偏平足などを治す矯正靴のメーカー「ニューバランス・アーチ」が1906年、米国ボストンに設立されたことに遡る。38年、同社はランニングシューズの製造をスタート。72年、同社をニューバランス現・取締役会長を務めるジェームス・S・デービスが買収。以後、矯正靴で培った技術を生かし、履き心地のよさと機能性を追求したランニングシューズを積極的に展開し、現在の地位を確立。88年12月には、日本法人であるニューバランス ジャパンが設立された。
【弘兼】12年11月、林さんが急逝したことで、冨田さんが社長を引き継ぐことになりました。
【冨田】林が亡くなったのは急でしたから。その日は、ゴルフ場で数十人が参加するコンペをしているときでした。
【弘兼】冨田さんも一緒にいらっしゃったのですか?
【冨田】はい。コンペの日は参加者のために観光バスを借り切っていました。ラウンドが終わり移動しようとしたとき、林がいきなりその場に倒れました。ほぼ即死状態でした。
【弘兼】では、冨田さんと林さんの間で「会社の次はおまえに頼む」などという会話はなかった。
【冨田】まったくないです。突然だったので、社内は動揺。私にとっては公私ともに世話になっていたので、ショックはありました。
【弘兼】社長を引き継いだのはどのような経緯なのですか?
【冨田】アメリカ本社との話し合いの中で、「次の社長はおまえがやれ」と。入社5年目でした。
【弘兼】当時、冨田さんは48歳。若い社長です。転職して間もない人間が社長になったことで、周囲の反発はありませんでしたか。
【冨田】(苦笑しながら)面白くないと思った人もいたかもしれません。ただそれよりも、私にとって大切な先輩が一生懸命やってきたこの会社をどう引き継ぐか。そういった意味では、オフタイムに林と長い時間を過ごしていたことが役に立ちました。私が考えたのは、この会社をいかに次のステージに引き上げるかということでした。