30~40代に刺さるメイド・イン・USA

【弘兼】日本の独自性といえば、ニューバランスは16年7月からゴルフ製品を展開しています。これは日本だけです。ゴルフの分野では、ナイキやアディダスが撤退しています。縮小気味な分野にあえて手を広げたのはどうしてでしょうか?

【冨田】ゴルフはビジネスとしてまだまだ可能性があると考えています。近年、ゴルフの競技人口は確かに減っています。それでもまだマーケットの規模は大きい。加えて、ゴルフをする方はわが社の顧客層と重なると判断したからです。

【弘兼】比較的裕福な層が多い。

【冨田】ニューバランスの「MADE IN USA」の靴は3万円近い価格が中心になります。それらの靴を好んで買われる層は30代、40代。そうした方がどういうスポーツをやっているかというアンケートをとると、ゴルフが非常に多い。ゴルフというのはよく歩く競技です。そこで我々がいままで大切にしてきたフィット感や履き心地が生きてくるのではないかと考えたのです。実際に、お客さんからの要望も高かった。

主要競技の選手と次々に契約 近年では、今まで力を注いでいなかったスポーツの一流選手、チームとの契約に乗り出す。左から英プレミアリーグ、昨季チャンピオン、レスター・シティFCのゴールキーパー、カスパー・シュマイケル選手、テニス世界ランク3位ミロシュ・ラオニッチ選手、米シアトル・マリナーズの青木宣親選手。

【弘兼】9年連続増収見込みと聞いています。この業績好調の中で心がけていることはありますか?

【冨田】ニューバランスのファンの方々は、他のブランドと違うユニークさを買ってくださっています。それが消費者から見て他のブランドと同じように映ってしまうと駄目だと思っています。

【弘兼】お話を伺っていると、ニューバランスが外資系企業であることを忘れてしまいそうです。

【冨田】アメリカのオーナー、ジェームス・S・デービスは従業員を「エンプロイー」(従業員)と呼ぶと怒るんです。社員は家族であって「アソシエイツ」(仲間)であると。外資系といえば、転職が多いという印象があると思うんですが、うちに関していえば離職率が1%を切っているんです。日本の一部上場企業でも3、4%のところが多いはずです。働きやすい環境もあるでしょうし、ニューバランスというブランドが大好きな人が多いのかもしれません。

【弘兼】外資系といえば、本社から外国人社員は何人ぐらい派遣されているのでしょうか?

【冨田】ゼロです。外資系といいながら、西洋人が一人もいない企業は珍しいと思います。もちろん、毎週、アメリカと電話会議は行っています。頻繁に本社から人も訪ねてきています。ただ、前任の林も私も日本人です。ニューバランス ジャパンはずっと日本人が社長を務めてきました。これは日本だけではなく、中国も同じです。ニューバランス チャイナは、うちのほぼ倍の売り上げになっています。他の同業他社ならば役員、社員の多くは外国人でしょうけれど、ニューバランス チャイナは全部中国人。いわゆるローカルスタッフでやっているんです。

【弘兼】ニューバランスは、グローバリゼーションとローカリゼーションの利点を上手く組み合わせているんですね。