「女性に絶対にフラれない方法」の例え

ここで大切なのは、問題が起きた原因や責任の追及より、問題そのものの解決を相手に持ちかけること。

「今、私たちがやりたいのは、起こった問題をどう解決するかだ。一緒に考えてくれ」というのです。

小さな問題でも、そのひとつひとつの解決に向けて話をしていくと、その大本となっている原因や責任の所在に触れざるをえなくなります。また、当人も、持て余している問題が解決に向かうのであれば、肩の荷が軽くなりますから、むしろ積極的にすべてを話そうという気持ちになってくるものです。

原因を明らかにせずして適切な解決法は出てこない、と仰る方もおられるでしょう。しかし、原因をひたすら追求すれば必ず核心にたどりつけるというものでもありません。むしろ私の経験では、ある仮説に立った捜査が空振りしても、その過程から第2、第3の手を講じていくうちに核心が見えてくるケースのほうが多いように思います。

私はよくこうしたやり方を、「女性に絶対にフラれない方法」に例えます。それは「告白しないこと」。私がある女性に告白して断られたら、そこで関係は終わり。その女性が後で思い直したとしても、改めて私を好きだと言ってくれる可能性は極めて低い。つまり、白黒をつけてしまうと、得られる情報はそこで終わり。その先にある情報は得られません。痴漢の被疑者でも、「やっただろう」と聞かれて「やりました」と答える人はいません。まず人間関係を築いたうえで、「今の気持ちを聞かせてよ」「何か理由があったんでしょう」「俺が助けることはできないけど、いろいろアドバイスはできるから」などと、相手が話し出すきっかけをつくります。焦って勝負せず、相手をよく観察して「いつでもOK」の構えでいることが大事です。

このように人と接していれば、悪い情報も入ってきやすくなります。部下も取引先も、真面目なほど起こった問題を抱え込み、かえって傷口を広げてしまいがち。でも、そういう人たちとの間に「何でも話せる」関係ができていれば、躊躇せず情報を上げてくれるし、そうすれば早期に問題の芽を摘むことができます。人に警戒心を抱かせない接し方が、実は業務の安全管理のセンサーという大きな役割を果たすのです。

▼立場の弱い相手を安心させるには

×鋭く追及する――小さな嘘を許さない。「おまえ、ここおかしいだろう」
 ↓
優しい“スローボール”――雑談。自分や相手の故郷の話etc
×いきなり核心を突く――「何だこれは」「要するにここがダメだ」
 ↓
話したいことから話させる――成果が上がらぬ言い訳、趣味・関心事
×親しみを示そうと嘘をつく――「阪神ファン? 実はオレもそうなんだ」
 ↓
教えを乞う――「阪神の開幕投手って誰になりそう?」
元警察庁刑事・犯罪ジャーナリスト 小川泰平
1961年、愛媛県生まれ。80年神奈川県警へ。警察本部刑事部国際捜査課・警察庁刑事局刑事企画課等で、刑事として主に被疑者取り調べを担当。知事褒章受章をはじめ、警察局長賞・警察本部長賞など受賞歴500回以上。2009年退職。著書に『現場刑事の掟』『泥棒刑事』ほか。
(高橋盛男=構成 石橋素幸=撮影)
【関連記事】
お笑い芸人に学ぶ、聞き手の心の開き方
思いのままに人を動かし、異性を「口説き落とす」会話術
孫正義流トーク「相手を本気にさせる」8つのキーワード
なぜ“掃除をすること”が信頼につながるのか
実力者を見極め、取り入る会話