仕事を進めるうえで最も大切なのは、取引先や顧客、あるいは上司や部下、同僚との信頼関係を築くことだ。信頼をつくり上げるもの、そしてそれを壊すものは何なのか……それぞれの道で認められた「仕事の神様」に聞いた。
ガー・レイノルズ氏は、「日本人はプレゼン下手といわれるが、それは思い込みにすぎない」という。人から信頼されるプレゼンの極意とは。
ストーリーを残し、スペック情報は削る
日本のビジネスパーソンの多くは、プレゼンのときにオーディエンスに顔を向けることなく、うつむいてボソボソと資料に書かれた内容を説明します。こうしたプレゼンはいかにも自信がなさそうに見え、提案内容にも信頼を置けなくなります。
では、アメリカ流の芝居がかったプレゼンはどうでしょうか。身ぶり手ぶりが派手で熱弁をふるうプレゼンには力強さがありますが、行きすぎると、怪しいセールスマンのような胡散臭さが漂います。
どちらのスタイルにも違和感を覚えた私は、アメリカ帰国後に勤めたアップル社で、自分なりにプレゼンの技術を追求しました。そこで見えてきたのが自然体のプレゼンです。控えめすぎず、押しつけがましくなく、普段の会話のようにナチュラルに語りかけるプレゼンが信頼されると気づいたのです。
再び日本に戻ってきた私は、そのメソッドを「プレゼンテーションZen」としてまとめました。その極意を、プレゼンの3つのステップに沿って説明していきましょう。
最初のステップは、企画を練ってプレゼンの構成を考える「準備」です。ここで意識してほしいのは、「何を伝えるか」より「何を省くか」です。プレゼンターは、伝えたいことすべてを伝えようとします。しかし、盛りだくさんのプレゼンは消化不良を起こしやすく、不親切。要素はなるべく絞り込んで、シンプルにすることを心がけてください。
具体的にいうと、ストーリーを残して、スペックなどの情報を削っていく。商品やサービスの特徴を個条書きにするより、その商品やサービスによってどのような変化がもたらされるのかという物語を示したほうがずっと説得力があります。
外資系の某化粧品会社で、新商品のメッセージについてディスカッションが行われました。「この技術が肌をきれいに見せる」「保湿効果が何%アップ」など、アピールしたい点がいろいろあり、まとまりません。ところが誰かが「これは働くお母さんの1日を楽にしてあげる商品だ」というと、みんなが納得してパッと方向性が定まりました。機能を並べるより、「働くお母さんが抱える悩みがこの商品によって解決される」というストーリーのほうがわかりやすく、訴求力があるのです。
質疑応答の準備も重要です。質疑応答なしで一方的に話すプレゼンは、オーディエンスから信頼を得られません。考えてみてください。恋人とデートするとき、相手が自分のことしか話さなかったらどう思いますか。退屈だし、「相手は自分のことを見ていない」と不信感を持ちますよね。オーディエンスの心理も同じです。双方向のコミュニケーションを取りたいと考えているのです。