仕事を進めるうえで最も大切なのは、取引先や顧客、あるいは上司や部下、同僚との信頼関係を築くことだ。信頼をつくり上げるもの、そしてそれを壊すものは何なのか……それぞれの道で認められた「仕事の神様」に聞いた。
ロビイストとは、米議会ロビーで議員を待ち構えて、特定の企業・団体の利害調整を請願する人々を指した俗語だが、その意味合いは時代とともに変わったようだ。今、永田町・霞が関にも活躍の場を得ている“ロビイスト”。その筆頭と目されているのが、霞が関ビルにオフィスを構える新日本パブリック・アフェアーズの小原泰氏だ。
天日に当てないと「根腐れ」を起こす
一般に我々の仕事は「ロビイング」と呼ばれますが、私自身は「政策アドボカシー(政策提言・権利擁護)」を行っているという自負があります。米国での「ロビイング」は合衆国憲法で保障されている「請願権」行使の一形態。日本でも憲法第16条に請願権、すなわち立法時や法改正時に自分の意見を述べる権利があります。我々の仕事はいわばそのお手伝い。企業や業界団体といったクライアントの抱える問題を解決する仕事ですが、それだけではなく、消費者と世の中のステークホルダーも含めた全体がよくなっていくための問題解決をギリギリのところで展開します。近江商人の言う「売り手よし、買い手よし、世間よし」の“三方よし”が日本的なロビイングであり、我々のいうアドボカシーです。
そういった仕事柄、民間企業や官僚、政治家などを相手に根回しを行います。根回しという言葉は水面下の交渉とか裏工作というネガティブなイメージが強いのですが、元来は園芸用語です。樹木を移植する際に、数カ月から数年に亘って広がった根を根元を中心に残して切り、新しい根の成長を促すことで活着しやすいようにする。それが「物事を行う際に、事前に関係者から了解を得ておく」という意味に転じたのは割合最近のことだそうです。
植物に新しい根を張らせ、水分や養分をより活発に吸収させる。そのためには、根回しの後に天日に当ててやることが一番大切です。新しい政策の導入や機能不全の制度を改める際も同じ。オープンにしなければ活力は生まれません。日の当たらないところで進める裏工作は“根腐れ”を起こします。いわゆる料亭政治がそう。日本の政治は永年、世間からは見えない密室に利害関係者やその代理人が集まり、責任の所在も不明確なまま物事を決めてきました。でも、もうそれじゃ駄目。問題の所在を明らかにし、公開された場で議論することが大事なんです。
既得権益と相まって、今の日本は政・官・業がお互いに萎縮しあう三すくみの状態。いわば役所がグー、業界がチョキで政治家がパーです。案件によって差もありますが、にっちもさっちもいかぬこの状況下では、生活者視点という「新しいチョキ」が、これまでとは違った切れ味を見せることがあります。たとえば、医療に関する案件を扱った際、患者団体を動かすことで事態が動き出したこともありました。こうした知恵を出すのも我々の仕事の一つです。