どうすれば人を動かせるのか。日本電産の永守重信会長は「私はよく『人に教えるときには千回言行』と言っている。だから同じ内容のメールを連日1週間、送り続けたこともある。どんな人であっても、毎日メールを送り続ければ、いつかかならず返ってくるからだ」という――。(第2回)

※本稿は、永守重信『人生をひらく』(PHP研究所)の一部を抜粋・再編集したものです。

スピーチは、冒頭が重要

日本人には「訴える力」が足りないと私は思っています。まずもってスピーチが苦手です。自分の会社や事業、研究所などがどういう方向に向かうべきかとか、訴えることはたくさんあるはずなのに、訴える力がないばかりに、人がついてこない。訴える力というのは、ただ単に上手な文章を書いたり、書いてあることを読むだけでは向上しません。常日頃から自分が考えているポリシーをピシッと、心に届く形で訴えるのでなくては、人というのは動かないものです。

日本電産の永守重信会長
日本電産の永守重信会長

日本電産の経営会議に行っても、グループ会社の経営会議に行っても、みなスピーチが下手。専門家に言わせれば、人間というのは、5分くらいはどんなにつまらない話でも寝ずに聞いているものらしいのですが、その後は3分くらいで眠くなります。目は開いているのだけど、ほとんど気絶しているかのようです。

「プレゼン能力」というよりも「訴える力」がないから人を気絶させてしまうのでしょう。大河ドラマでも何でもそうですが、最初のところで「このドラマは他とは何か違うな」と思わせないと、視聴者は最後まで観てくれません。初回であくびばかりさせていたら、「全然おもしろくないな」となって、そこでおしまいになってしまいます。

だから、話のスタートというのはものすごく重要になります。にもかかわらず、プレゼンの資料は細かい字ばかりで遠くから読めない、与えられた時間で何を訴えようかが定まっていないので、何を言っているのかわからない、そんなスピーチが多い。

「笑い」「驚き」「感心」の3つを入れる

中には、短い時間でポイントを突いてパシッと言う人がいます。たとえ訳のわからない話でもポイントを突いているから、時間通りにパッと終わる。

そもそも与えられた時間をオーバーしてしまうのはよくありません。30分くらいまでなら、「これとこれを話せば30分くらいになるな」と時計を見なくても、プラスマイナス5分くらいで終われるようにしないといけません。

では、具体的にどんな話から入ればいいかといえば、まずは「笑い」が必要です。5分くらいの短い話は別にしても、30分とか1時間話をしようと思うと、堅い話ばかりでは聞いているほうが続かないからです。

笑いが終わったら、次は「へー!」という驚き。三つ目は「ははー、なるほどな」という感心です。笑い、驚き、感心の三つがそろっていれば、人は寝ません。ワハハと笑いながら寝られる人はいません。驚いているときも、感心しているときも、人は眠ったりしないものです。

そして、5分に一度は、笑い、驚き、感心のどれかを披露する。4分50秒くらい難しい話をしたあと、最後の10秒でパッと笑いを入れて目を覚まさせるわけです。