一人でも部下を持つなら、必ず人の心を掴まなければいけない
部下を持たなくていい、一人でやっていきたいと考える人には、求心力は要りません。しかし、一人でも部下を持つ場合は、必ず人の心を掴まなければならない。まず、心に訴えて、それを頭で理解して、初めて行動に移せるようになる―─。この順番が大切です。具体的にいえば、「ああ、この人の言っていることは実現可能だな」とか、「その通りだな」というように心に通じたあとに頭に上がってくる、そして頭で理解したあとで行動に移していくことになります。
この間、30代で病院をつくった経営者に会ったところ、「今、私は全然、患者の診察はできません」と言っていました。それでも、とんでもない数の病床がある病院を経営できているのはなぜでしょうか。現場の医者に手術スキルがないと困りますが、病院経営者にとって必要なのは手術スキルではなく、訴える力だからです。
なぜなら、経営には理屈が通用しないからです。会社を経営していると、毎日毎日違ったことが起きます。設計とか開発とかなら、一応は基本となる理論や理屈がありますが、経営にはそれがありません。
だからこそ、組織の上に立つ人には訴える力が必要なのです。理屈通りにいかないことであっても訴える力を駆使して部下の心を動かさなければいけないのです。
人に教えるときは千回言行
もし、あなたに部下が1000人いたとして、どれだけの人が、あなたが伝えていることを本当の意味で「わかっている」でしょうか。本当の意味で「わかる」ためには、頭でわかっているだけでは十分ではありません。完全に腑に落ちて、実行できるところまでもっていけることが、本当の「わかる」であって、そこまで「わかる」人は、1000人いても1人くらいではないでしょうか。
だからこそ、何度も伝えないといけないのです。私はよく「人に教えるときには千回言行」と言いますが、人にわかってもらおうと思ったら、1000回は言わないと伝わらないということです。
ただ、実際には、1000回伝えているリーダーはほとんどいないでしょう。たいていは途中で放り出して、「こんな困ったやつは、もう辞めさせろ。言っても仕方がない」と諦めてしまう。本当は、1000回繰り返せば、絶対に伝わるのを途中でやめてしまっているのです。「1回言っただけでできる人」は天才であって、世の中にはそうそういるものではありません。秀才でも10回は言わないといけない。だから、1回しか言わないで、「なぜできないんだ!」と言うのは無理があるということです。
そして、大事なのは、1回目のときも、2回目のときも、1000回目のときも、初めて言ったように話すこと。聞いているほうは、「この話はもう100回目だ」と思って聞いていたとしても、言っているほうは、「今日は初めてだぞ、この話は」という気持ちで話さなければなりません。
中には、「お言葉を返すようですが、先ほどから何やら初めてのようにお話をされていますが、もう100回聞きました」と言う人がいるかもしれません。もちろんそんなことはわかっています。でも、まだ1000回に到達していないから、こちらは1000回言うぞ、伝わるまで言うぞという気持ちで話しているのです。