営業部隊に説いた「客を持つのは店」
最も苦労し、重視もしたのは、自社の営業部隊の意識改革だ。リモデルクラブ店は従業員数人で、年商も数億円以下の小規模企業が多く、自社ブランドを自負する営業部隊はつい「上から目線」になりがちだ。そこで、何度も説く。
「我々は、クラブの店が消費者に対応するのに必要な商品と支援をするのが仕事で、実際のお客を持っているのは店だ。きみらは、そういうお客は持っていない。営業担当にとって、リモデルクラブ店こそ、お客だ。そういう思いがないと『上から目線』になる」
意識改革には、4、5年かかった。その間、マーケティング統括本部長、取締役販売推進グループ長、常務と昇格した。でも、見据えた成長市場で確固たる地位を確立するには、4、5年は、長くない。やり通すことこそ重要だ。
いま、ショールームは全国に101カ所。アドバイザーは、水回り全般の相談に応じ、2015年度の来館者は夫婦や親子など25万組。新製品の投入も加わり、ショールームでの応対が実際の購買に結びつく率はトイレや洗面台で5割前後、キッチンや風呂では7割から9割にもなる。まさに、利益を生むプロフィットセンターだ。
「臨事有三難。能見、一也。見而能行、二也。當行必果決、三也」(事に臨むに三つの難き有り。能く見る、一なり。見て能く行う、二なり。當に行うべくんば必ず果決す、三なり)――課題に臨んで対応するとき、三つの難しいことがある。第一によく見通す。第二に見通したら、それを行う。第三には行うべきことをやり通すとの速断、という意味だ。中国の『宋名臣言行録』にある言葉で、課題の解決には物事を見通す力、実行する力、やり通す力が必要と説く。リモデル事業で発揮した張本流の進め方は、この教えと重なる。
09年4月に社長になるまで、営業ひと筋の36年間。失敗して、お客に土下座をしたこともあるが、翌日からもっと親しくなった。失敗体験の大半は、後で成功体験に置き換わってきた。そんななか、40代を迎える前に経験した千葉県・柏営業所の所長のころから、信条になったことがある。「成功も失敗も、100%そうであることはなく、30%から70%の振れ幅の中にある」という思考だ。
たとえ成功したと思っても、必ず2、3割は改善点があるし、失敗に終わっても、3割くらいはうまくいった点がある。そこを、しっかりみきわめることが進歩につながる、と知った。だが、部下を持つ身になって、違う光景が目に映る。何かをやらせてみると、うまくいかないと全く落ち込み、うまくいくと有頂天になる。
思えば、自分も若いときは、成功か失敗かの価値判断しかなかった。成功は満点で受け止め、失敗は忘れたい話。でも、経験を重ねて、1か0のデジタル思考でとらえてはいけない、と思うようになる。そういう気持ちで部下に接すれば、「當行必果決」というところに到達する強い心を育てることができる、と得心した。
時代がいくら変わっても、「人と人の関係」を基本とする営業の意義は、変わらない。無論、営業の本質は個性であり、誰もが同じやり方をする必要はない。型にはまった営業でいいなら、ロボットにやらせればいい。個性を曲げて相手に合わせても、あとが辛くなるだけだ。社長になったころ、そんなことを、社員たちに伝えた。
営業に、ひとつの正解はない。やはり、そこへいき着く。
1951年、東京都生まれ。73年早稲田大学商学部卒業、東陶機器(現TOTO)入社。98年リモデル企画部長、2002年マーケティング統括本部長、03年取締役、05年常務、06年専務、09年社長。14年より現職。