ショールームの目標数は、全国に100カ所とか130カ所という数字が出ていた。だが、ただ増やせばいいわけではない。様々なデータから「成り立つ」との答えが出なければ、つくってはいけない。だから、社長に「130カ所まではシナリオが描けましたが、それ以上は、もういいです」と報告した。これも「論理的で定量化されていないと動けない性質」が、軸となる。

実際にお客と向き合い、個々の思いを受け止めるのが、ショールームアドバイザー。TOTOへの第一印象を左右する、大事な存在だ。実は、東京支社の課長時代、40代を前に、ショールームでシステムキッチンの相談を受ける女性陣の部下が約50人いた。「課長対50人」のフラットな組織で、指示は通りやすい。でも、ひとたび信頼を失うと、何も進まない。

着任した翌月、東京・虎ノ門にあった支社から近い施設で、支社の忘年会があった。そこで、課ごとに全員が壇上に上がる場面があり、部下の全員をフルネームで紹介した。メモも何も、みない。1カ月間、全員の姓名を懸命に覚えた。50人についてきてもらうための最大のメッセージは、全員の顔と名前がフルネームで一致することだ、と思ったからだ。

終わると、みんな、すごく喜んでくれた。あのときに本気で覚えたから、20年以上たっても、会えば自然に名前が出る。もう一つ、いま社会の大きな課題となっている「女性の活躍を支援する」ことの大切さも、ここで学んだ。

リモデル事業の推進役になってショールームを充実したとき、同業他社に「何をやっているのか、経費がかかるだけではないか」と言われた。だが、ぶれない。その基盤に、この課長時代の経験がある。市場がみえている以上、やるのが当然、との思いだった。

建設資材メーカーの大建工業、アルミ建材メーカーのYKKAPと3社で、業務提携も結んだ。商談を水回りだけではなく、ドアや引き戸など居住空間に広げる体制を構築する。両社と2社、あるいは3社で共同運営するショールームは、この秋までに全国の主要都市11カ所に増えている。