「寿退社」の人でも胸を張れる仕事を
<誰しも自主努力だけで簡単に自分を変えることはできない>
TOTOの石井美和は『V字回復の経営』(三枝匡著)を手に取った。一目で読み込んだとわかるほど角がすり切れている。
「大きな影響を受けた一節なんです」と語った石井は、冒頭のフレーズをそらんじた。
石井の前には、ひと山の書籍が積まれている。14年前から続く社内人材育成プログラム「経営塾」のテキストである。読了必須の「課題図書」と副読本の「推薦図書」で計20冊。ビジネス書だけでなく、『君主論』(マキャヴェリ著)、『代表的日本人』(内村鑑三著)なども含まれる。
石井は経営塾に通った日々について「人生でもっとも徹夜した1年だった」と振り返った。
「ビジネスやマーケティングを基礎から学ぶことで、いままで言葉にできなかったモヤモヤとしていた考えを、きちんと表現できるようになったんです。本を読んで得た知識と職場での経験が、結びついて腹に落ちたといえばいいでしょうか」
TOTOは2011年度決算で2年連続の増収、3年連続の増益を達成。国内では新築物件向けが好調なほか、海外ではアジア全般で売り上げを伸ばしている。その原動力が、経営塾で学んだ社員たちだ。
経営塾は、社員の年代や役職ごとにベーシック、アドバンス、リーダーズの3つのコースに分かれており、12年度にはそれぞれ50人、25人、16人が選抜された。期間は約6カ月。外部の経営コンサルタントのほか、社長を含む社内の役員らが講師を務め、締めくくりには役員会への経営提言を行う。その主眼は、「管理職の養成」ではなく、経営者となりうる「リーダーの育成」にあるという。
かつて経営塾の受講生だった石井は、現在、人財開発本部に籍を置き、経営塾を主導する立場にある。入社は1991年。横浜ショールームでの「専任キッチンコーディネーター」が、キャリアのスタートだった。
「うちの台所の雰囲気に合うのは何色のキッチンか」。それまで客からの質問には感覚や経験で説明をするのが普通だった。
「でも、それがイヤだった」と石井は続ける。
「なぜその色なのか、明確な根拠を示したうえで、納得してもらいたかったんです」
まず書店でカラーコーディネートについての本を買い求めた。20代のうちにカラーコーディネーターをはじめ、キッチンスペシャリストとインテリアコーディネーターの資格を取得した。