「涙のプレゼン」と女性管理職の苦悩

2007年、石井は販売部門ではじめての女性管理職として、横浜支社のリモデル営業推進課長に抜擢される。さらに経営塾の受講生にも選ばれた。

経営塾の塾長、加藤英索さん。

経営塾の狙いについて、加藤は「根底にはTOTOのDNAを次世代に継承していくという思いがある」と説明する。

「経営トップと何時間も議論ができるんです。青臭い提案でも、受け止めてくれる。他社に比べても、経営トップが関わる時間は圧倒的に長いと思います」

経営塾では月に1~2度、御殿場の宿舎で合宿を行う。石井ら5人のチームは、こんな課題に取り組んだ。

「ものづくりに市場のニーズを反映させるにはどうすべきか」

マーケティングで集めたデータは、ユーザーの要望を十分に汲み取れているのか。チームが着眼したのは元請けの優良店を組織する「リモデルクラブ」だ。元請けにはユーザーの生の声が自然と集まる。これを死蔵させる手はない。ソリューション営業に取り組んだ石井の現場経験が活きた。

合宿などで経営戦略について講義を受けながら、課題のために優良店へのヒアリングを行う。当然、新任課長として慣れない業務をこなしながらだ。

修了前のプレゼン。涙を流しながら発表する石井の姿が、加藤の印象に残っている。

その後、計3年間、石井は課長として、30人のアドバイザーと5人の企画課員を率いた。経営塾での学びを部下の指導に活かそうとした。けれども、歯がゆい思いをしたという。

今後の営業施策を話し合っても、新しい視点が出てこない。

「とにかく考え抜いて」と鼓舞するが、意識のギャップを埋められない。むしろ自分の思考の狭さを感じた。

「稼げる組織をつくるためには、稼げる人を育てなければ、と考えていたんです。結局、なかなか理解してもらえませんでしたが、いますぐは難しくても、何年後かにわかってもらえればと思うようになりました。信念をもって言い続けるしかない、と」