――来月はゴルフのコンペや結婚式が重なっていて、出費がかさみます。

だからといって、安易に借金をするのはよくありません。借金が許されるのはごく限られた状況においてのみです。生活費は収入の範囲内でコントロールするのが基本です。

――もちろん、きちんと返済できる金額を借りるつもりですよ。

僕は家計を補うためだけに借金して、心穏やかな生活を送った人を見たことがありません。

人間は動物です。動物は自分で餌を取るのが基本で、自分のことは自分で面倒を見て生きています。生活費で借金をするということは、衣食住の面倒を自分で見られないということ。つまり、自分で餌が取れないことを意味します。

――返済期限を決めておいてもダメですか?

人間が「賢くて勤勉な生き物」であれば借金をしてもいい。ところが、人間は基本的に「アホで怠け者」です。そのような人間が借金をしてしまったら、ロクなことはない。ずるずると借金地獄にハマりますよ。

――でも、真面目でしっかりした人であれば道を踏み外すことはないのでは?

仕事面だけ見ていると、賢くて勤勉に見える人もいますが、プライベートまでしっかりしている人は少ないものです。歴史を遡れば、『資本論』をまとめたカール・マルクスも、自分の子どもの面倒はエンゲルスに任せていたそうです。

すべての面で完璧な人など、世の中にはなかなかいないのです。

――白馬の王子様が現れないのと同じですね。

いい男だと思っていたら、意外とケチだったり、嫉妬深かったり、ギャンブルに狂っているなど、何かしら問題を抱えているものです。

――出口さんはギャンブルもしないほうがいいと思いますか。

いえ、昔は僕も麻雀をしていましたし、前の会社でロンドンに赴任していたときは、つき合いでカジノにも行っていました。でも給与のうち、なくなってもいいと思うお金の範囲内で遊んでいました。

ギャンブルが悪いのではなく、のめり込みすぎてしまうことが問題です。

――では、借金が許されるのはどのような場合なのでしょうか?

生活費以外の自己投資です。思い切って自分のためにお金を使うことは、「浪費」ではなく「投資」になります。人生を懸けて起業するときに借金をすれば、イヤでも「必死にやる」という強制力が働きます。

一方、単なる家計の借金は何の強制力も働きません。「家計では絶対に借金をしない」というのが僕の持論です。

Answer:家計で借金はせず、収入の範囲内で賄いましょう

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長 

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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