――早く帰りたいのですが、仕事も大事な時期で遅めの帰宅になりがちです。

その意識をまずは変えなければなりません。

――仕事人間ではダメなんですか?

考えてもみてください。1年は365日×24時間で8760時間です。そのうち、仕事の時間は2000時間程度。人生全体で考えると、仕事は2~3割程度の「どうでもいいもの」です。大事なことは、食べて、寝て、子育てをして、パートナーや友人と過ごす時間です。

――意識改革をすれば、早く家に帰れるものなのでしょうか。

仕事はどうでもいいものだと腹落ちすれば、思い切って仕事ができます。そうすれば、上司にゴマをすらなくてもいいし、不必要な社内調整もいらなくなる。やるべき仕事に集中でき、早く家に帰れるので、「帰りが遅い」と家族が不機嫌になることもありません。

早く帰れないから家事や子育てを手伝うこともできない。

生産性も低くなる。ダラダラ残業が諸悪の根源だと思います。

――無駄なことにエネルギーを使いすぎているのですね。

前職時代に、中途入社した人が僕にこう言いました。

「すごい会社です。優秀な人が山ほどいます。でも、その人たちが持つエネルギーの95%を社内政治に使っています。もったいない話ですね」

やるべき仕事に集中し、そのほかのことを割り切れば、あまり疲れなくなります。そうして必要な仕事にだけエネルギーを注げば、早く帰れるはずです。

パートナーが1番で、友達が2番、3、4、5がなくて、6番ぐらいが上司ではないですか。

――妻とのコミュニケーションでは何を心がけるべきでしょうか。

夫婦それぞれ幸せのかたちは異なります。お互い何が幸せで、何をパートナーに求めているのかを、よく話し合っておくことが大切です。

極端な話、「給与を運んできてくれれば、不在でも構わない」という取り決めであっても、コミュニケーションが成立していればそれでいい。

――それはまた、ドライな関係ですね……。愛情表現は恥ずかしがらずにしたほうがいいですか? 日本では「綺麗だね」「愛しているよ」と妻に伝える人はあまりいません。

パートナーが望んでいるかどうかです。「たまには褒めてよ」と言われたら、一所懸命褒めましょう。

――出口さんも「愛しているよ」と口に出すのですか?

……それは秘密です。

Answer:仕事は人生の2~3割。「どうでもいいもの」と割り切り、思い切って仕事をしましょう。

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長 

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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