中国景気の減速懸念や英国のEU離脱決定、為替の急激な変動など、厳しい経営環境が続く。新しくトップに就任した男たちは、この逆境にどう立ち向かうのか。
ドローン活用、施工の無人化で生産力強化
4年後に東京五輪を控え、いま建設業界は活況を呈している。その先頭を走るスーパーゼネコンの一角を担う清水建設の業績も好調だ。順風のなか、同社の舵を取る井上和幸新社長。入社以来、現場と営業で鍛えた経営手腕で、本業をさらに強化しながら、将来に向け第二、第三の事業の柱を育てたいと話す。
――現場と営業を経験されているが、思い出深い仕事は。
【井上】21年ほど横浜支店にいて技術者として成長させてもらった。とりわけ印象に残っているのは、2001年に竣工した桐蔭学園メモリアルアカデミウム建設工事に伴う横浜地方裁判所陪審法廷の移築復元だ。戦後、連合軍の軍事裁判にも使われた歴史的な場所で、意義深い仕事になったと思う。
1980年代半ばから開発が進められていた「みなとみらい地区」の日石横浜ビルも記憶に残る。工事長として、全天候型ビル自動施工システムという最新工法に取り組んだ。
ここに、550億円を投じて進めてきた大型オフィスビルが19年度に完成する。こんなところにも私は横浜との深い縁を感じざるをえない。
――五輪需要やリニア新幹線と業界には追い風が吹いている。
【井上】社長就任の挨拶に回ると「建設業界は絶好調ですね」といわれるが、私は「“絶”はつきません」と答えてきた。確かに、リーマンショック以降、工事量が急激に落ち込み、過当競争に陥った。コストぎりぎりで受注した工事が、資材価格の上昇に対応できないで欠損になることも少なくなかった。この状況は12、3年まで続いたが、そうした物件が一巡し、採算性の高い仕事が取れるようになった。
その意味では、ようやく本来の姿に戻ってきたのではないかと思う。こうしたときだからこそ、次の時代を見据えた投資が不可欠になってくる。東京五輪後は、一時的に建設需要は縮小するかもしれないが、大幅に減少することはないはずだ。ただし、環境変化はますます速くなる。
ドローンなどを利用した測量・施工の無人化で生産性向上を図るなど、全社の力を結集した将来への布石を着実かつ迅速に打ちたい。