中国景気の減速懸念や英国のEU離脱決定、為替の急激な変動など、厳しい経営環境が続く。新しくトップに就任した男たちは、この逆境にどう立ち向かうのか。

現場、現物、現実の「三現主義」で信頼回復

子会社の杭打ちデータ問題で引責辞任した前社長に代わって、旭化成を率いることになった小堀秀毅社長。専務時代は、4人の代表取締役による集団経営体制の一角として会社を支えた。もともと次期社長の有力候補と目されていたが、今回の騒動で登板が早まった。新生・旭化成をどう導くのか。
――社長就任の経緯は?
旭化成代表取締役社長兼社長執行役員 小堀秀毅氏

【小堀】前社長の浅野(敏雄)が、4月から新しい中期経営計画を実行するにあたり身を引いたほうがいいと決断した。私自身は、今回は旭化成建材内部における問題であり、持ち株会社の社長までが辞任する必要はないのではと話した。しかし、浅野の決意が非常に固かった。大変な局面に後任を託された。誰かが担う必要があり、自ら活を入れてやらなければならないと決断した。

――信頼回復のための取り組みは?

【小堀】いま言い続けているのは「三現主義」だ。杭打ち問題も、現場で起きていることを管理者が把握していなかったことがポイントになった。自ら現場に行き、現物を見て、現実を知ることを各層で積み上げていく。具体的には、(化学・繊維・エレクトロニクス事業の)マテリアル、住宅、(医薬・医療機器事業の)ヘルスケアの各領域でリスクの優先順位をつけ、現場で厳しくチェックしていく体制を整えていく。

――印象に残っている仕事は?

【小堀】新しいことに挑戦すると想定外の問題も起きる。エレクトロニクス事業で部長をやっていたとき、携帯電話の通信用デバイスに問題が見つかり、発売直前の機器を全部回収し、徹夜で交代しながらチェックした。対策品をつくって何とか発売につなげ、組織の代表として交渉したが、億単位のクレーム補償になった。社内で了解を取るのにも苦労したが、それによってお客様から信頼され、継続して新しい製品の開発にあたることになった。予期できないことが起きたときには、事実に基づきお客様に誠実に対処していくことが大切だと学んだ。