小売業の次は製造業へ展開

【田原】おもしろい。こうした仕組みが発展すると、客が少ないときは自動的に値下げして、多いときは値上げするといった仕掛けもできそうですね。

田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【岡田】そうですね。いま私たちは小売りだけでなく製造業の会社様ともおつきあいを始めています。そちらのほうは、サプライチェーンの調達のところから最終的に販売するところまで価格をコントロールできるプラットフォームになっていて、状況に応じて価格を自動的に変動させることも十分可能になると考えています。これが私たちの考える第四次産業革命で、全ての産業がつながっていく時のプラットフォームを構築することが重要だと考えています。

【田原】いま契約しているのは何社ぐらいですか。

【岡田】まだ数十社です。正式版を売り出したのは昨年10月。いまちょうどさまざまな会社様がトライアルで導入し始めているところなので、契約社数や導入店舗が増えてくるのはこれからです。

【田原】なるほど。今後、さらに拡大していくための戦略はありますか。

【岡田】営業に関しては、小売店を一店舗一店舗回るというより、ヘッドクオーターを押さえにいこうとしています。とくに狙っているのはアパレルです。アパレルは全国に店舗があって、数百億円規模の売り上げを持っている会社様が少なくありません。そういった会社様と契約して、うまくいっていないとこを見つけて改善することができたら、爆発的に普及していくのではないかと期待しています。

まずはシンガポール、次はサンフランシスコを目指す

【田原】岡田さんはもともと「世界を変える」と言っていたシリコンバレーの人たちに刺激を受けた。この事業は海外にも展開するのですか。

【岡田】はい。まずやりたいのはシンガポールです。東南アジアは、これから小売市場がとてつもなく伸びることが予測されています。ところがショッピングセンターを運営するノウハウは日本ほど洗練されていません。そこに私たちの商品の出番があるんじゃないかと。

【田原】人口が伸びると言われているのはインドネシアですね。シンガポールを狙うのはどうして?

【岡田】東南アジアのハブになっていて、小売りのヘッドクオーターもシンガポールにあるからです。日本国内での営業戦略と同じで、ヘッドクオーターを攻めることが重要です。

【田原】ほかの地域はどうですか。

【岡田】あとはサンフランシスコに拠点を置きたいです。サンフランシスコは営業ではなく最先端技術をリサーチする拠点です。私はシリコンバレーでディープラーニングと出合いましたが、これからシリコンバレーでディープラーニングより素晴らしい技術が生まれて、私たちのほうが逆に破壊されるかもしれません。それを防ぐには、社内で研究を続けるだけでなく、つねに最先端の地でリサーチを続けていく必要があります。

【田原】なるほど。自分たちが最先端だとあぐらをかいていたら、もっと新しいものにやられる可能性もあるわけだ。ところで、アメリカやヨーロッパで営業はやらないのですか。

【岡田】私たちの企業規模ではまだ考えられないというのが正直なところですが、いずれはやりたいです。アジア、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア……。ゆくゆくは、世界中の人々に私たちのイノベーションを体験してもらいたいですね。

【田原】わかりました。頑張ってください。

2016年、元インテル取締役兼副社長執行役員の宗像義恵氏が経営顧問に就任。

岡田さんから田原さんへの質問

Q. ネット時代のイノベーションには何が必要ですか?

【田原】インターネットには驚きました。日本にいて外国の情報が、しかも動画で見ることができるのはすごい。まさに革命でした。

もちろん昔も衛星放送などで海外の情報に触れることはできました。でも発信者はプロ。インターネットの世界では、素人がスマホで撮影して発信者になれる。チュニジアやリビア、エジプトで革命が起きて独裁者が倒れたのも、一人一人が発信者になったからです。

ただ、オンラインの情報が増えたからこそ、オフラインの重要性も増しています。今年、オバマが広島に来て、原爆被災者の背中をさすりましたね。いくら技術が発達しても、オンラインでは背中に触れない。そこは忘れてはいけないと思います。

田原総一朗の遺言:人の温もりを感じさせろ!

 
編集部より:
次回「田原総一朗・次代への遺言」は、COMPASS社長・神野元基氏インタビューを掲載します。一足先に読みたい方は、8月22日発売の『PRESIDENT9.12号』をごらんください。PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。
 
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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