来店したが「買わなかった人」のデータが教えてくれるもの
【田原】事業内容を教えてください。ディープラーニングをコアテクノロジーにしてサービスを提供するということですが、具体的には何をしているのですか。
【岡田】ディープラーニングの得意な領域はいくつかありますが、なかでもいちばん得意なのが画像認識です。そこでまず画像認識分野で事業化することに決めました。では、画像認識を使ったソリューションを必要としているのはどこなのか。そう考えてハマったのが小売業でした。
【田原】どういうこと?
【岡田】小売業では、買った人のデータはPOSレジで取っています。しかし、来店したものの買わなかった人については何も把握していません。そこで、が画像認識の技術で来店者の行動を把握して分析するサービスを提供することにしました。
【田原】買わなかった人のデータ? それをどう活かすのですか。
【岡田】たとえばレジで2人しか買わなかった商品があったとします。この2人が100人来店したうちの2人なのか、それとも10人来店したうちの2人なのかによって、その店の課題は変わってきます。たとえば100人来ているのに98人が買わなかったのなら、接客や陳列の仕方に問題があるのかもしれない。一方、10人来て8人が買わなかったのなら、接客や陳列に問題はなくても、そもそも集客に問題があるという話になる。このように買わなかった人に焦点を当てることでわかることがいろいろあります。
【田原】来店者のデータはどうやって取るのですか。
【岡田】センサーを設置します。コンビニ程度の広さなら3~4台かな。センサーから送られたデータをディープラーニング技術で認識して、その人の店内での動きや、性別や年齢などの属性データを収集します。
来店者の顔認識をしない理由
【田原】来店者の顔を認識して、個人を特定しないのですか。それができると、もっとおもしろいことができそうだけど。
【岡田】技術的には顔で「認証」することは可能です。しかしプライバシーの問題があるので、そこはまったく手をつけていません。私たちがやっているのは、あくまでも顔の「認識」です。
【田原】そうですか。たとえば顔認識で、ある時間帯に20代の女性が多く来店したというデータが取れたとしますよね。こうしたデータはどうやって活かせばいいですか。
【岡田】今後は過去のデータだけでなく、プレディクティブ、つまり直近の未来予測に基づいてマーケティングができるようになります。たとえば明日の来店者数に合わせて在庫をコントロールしたり、シフトを調整することも可能です。この予測も人工知能で行います。
【田原】なるほど。岡田さんの会社のシステムを導入したら、人工知能が店舗運営のコンサルまでやってくれるようなものだ。シフトの無駄がなくなって人件費も減らせるし。
【岡田】そうですね。5人いたところが3人で済むというようなケースはたくさん出てくると思います。そもそも小売業をターゲットにした理由の一つに、人手不足の問題があります。今後、生産人口が減っていったときにもっとも打撃を受けそうなのが、小売業や飲食業。私たちがその問題を解決できたら社会的意義も大きいと考えています。
【田原】ひとくちに小売業といっても、楽天に出店しているようなネットショップもありますね。どうしてリアルな店舗を対象にしているのですか。
【岡田】インターネット上のデータに関しては、GoogleやFacebookといった大手の会社がすでに押さえていて、いまからでは勝負ができません。一方、リアル店舗のようなオフラインのデータは彼らも取得できていない。私たちに勝機があるならオフラインのほうです。
【田原】いまうかがった仕組みで、どうやってお金をいただくのですか。
【岡田】インターネット上で販売していて、いちばん軽いプランで月額5000円ぐらいから。標準的には数万円で、たくさん使っていると数十万円という単位になります。
三越伊勢丹、東急電鉄&百貨店が導入
【田原】なんでも三越伊勢丹が導入したそうですね。実際に入れてみて、三越伊勢丹の売り上げは伸びましたか。
【岡田】デパートは、どこに何を置くと売り上げが上がるのかという仮説検証があまりできていない業界でした。そこを私たちの仕組みで検証したわけですが、結果としては、目玉商品はどこに置いても売れ行きは変わらず、人通りの多い場所に置くより、店舗の内側に置いたほうが“ついで買い”が発生して、客単価が高くなることがわかりました。そのことを踏まえて置き方を変え、売り上げも伸びています。
【田原】東急電鉄ともプロジェクトを始めたとか。画像認識の技術で何をするのですか。
【岡田】複数のプロジェクトをやらせていただいていますが、わかりやすいところで言うと、渋谷にたくさんある東急さんの建物の中の人の動きを見させていただいて、デジタルサイネージと連動させる実験をしています。たとえば東急百貨店の3階がいま空いているなら、3階に集客するための広告を東急電鉄のデジタルサイネージに出していく。逆に混んできたらコンピュータが判断して自動で広告をやめるという仕組みです。