Alvin Toffler-アルビン・トフラー(1928~)
アメリカの未来学者。ニューヨーク大学卒業後、57年からジャーナリストの道に入る。59年から2年間、「フォーチュン」誌の副編集長を務めた。そして、64年出版の『文化の消費者』で分析力が注目され、80年に出版した『第三の波』が世界的なベストセラーに。そのほか主な著書として『未来の衝撃』『文明の消費者』『大変動』などがある。また、コーネル大学の客員教授なども務める。
地球環境問題に関心が集まるなか、今年の夏、日本でも温室効果ガス(GHG)の排出量取引が始まる。予め工場などの施設にGHGの排出枠を設けて、実際の排出量との差を金銭で取引させる。排出枠より排出量が少なければ、余剰分を売却して利益が得られる。逆に、排出量が排出枠より多ければ、他の施設から排出量を購入しなければならない。そのため、GHG削減に向けた努力を企業に促すと期待される。
しかし、ここまでくるのにも、産業界から「非効率だ」「自主的な取り組みで十分だ」など激しい反発にあった。その結果、欧州連合(EU)では1万2000の施設に国が排出枠を設定するのに対し、日本では各企業が自主的に設定した削減目標をベースに排出枠を決める。また、目標未達成の場合は罰金を課すEUと違い、日本には罰則規定がない。それゆえ、その実効性には早くも疑問符がついている。
こうした環境問題に対する日本の取り組みの立ち後れを見て思い浮かぶのが、「産業主義を存続させようとする人とそれを押しのけようとする人の間に大闘争があることを認めてはじめて、現代世界を理解することができる」という、かつての世界的大ベストセラー『第三の波』(1980年)のなかでアルビン・トフラーが語った言葉である。
紀元前8000年頃に興り、1650年から1750年頃まで世界を支配していた農業文明が「第一の波」。それに続く「第二の波」が、産業革命以降に押し寄せた産業文明である。産業文明のシンボルとも言うべきなのが、蒸気機関の発明を機に始まった二酸化炭素(CO2)の人為的排出だった。1960年前後に米国にはじめて押し寄せ、その後ヨーロッパ諸国、ロシア、日本に怒濤のごとく押し寄せたのが、ポスト工業化社会へのシフト、20世紀型産業文明の見直しという「第三の波」である。
トフラーが指摘する「第三の波」については、高度情報化社会の到来を早くから見通していたものとして高く評価する向きが多い。確かにそうなのだが、加えて、20世紀型産業文明の見直しを迫る地球温暖化問題が「第三の波」の波動の源の一つであることにも注目したい。
「第三の波」が押し寄せたからといって、すぐに「第二の波」が引き潮に転じるわけではない。2つの波は激しくぶつかり合い、相手を押しのけ、押し戻そうとする。環境対策に対する「反対派=第二の波」と「賛成派=第三の波」の争いから目をそらしていると、地球社会が今後どこへ向かうのかが見えなくなる。