James C.Abegglen-ジェームズ・C・アベグレン(1926~2007)

日本的経営モデルを分析した経営学者。終戦後、アメリカ戦略爆撃調査団の一員として来日。シカゴ大学にて人類学と臨床心理学の博士号を取得後、再来日し日本各地の工場を視察、『日本の経営』を著しベストセラーとなった。その後コンサルティング業界へ転じ、ボストン・コンサルティング・グループの設立に参加。1982年からは日本に住みつづけ、上智大学でも教鞭を執った。


 

図を拡大
アベグレンが説いた日本的経営の3つの特徴

「終身雇用」という言葉は経営学者アベグレンの著書『日本の経営』(1958年)の中で最初に登場した。訳者は、私の師匠、占部都美教授(元神戸大学教授)である。彼は「lifetime commitment」を「終身雇用」と訳したが、現在、この訳語が一人歩きしている。

アベグレンは、日本的経営の特徴の一つとして「lifetime commitment」を挙げた。そこで彼が強調したのは、雇用期間が長いか短いかではなく、企業と従業員の終身における「心理的契約」であった。法的な効力はないものの、一旦雇用関係を結んだ以上は原則として定年まで雇用関係を続ける、という企業と従業員の書かれざる契約であり、この心理的契約があるがゆえ、従業員は忠誠心を持って働くのだと説いたのである。最近の「派遣切り」批判は、「lifetime commitment」の雇用期間の部分のみが日本企業に根付いた結果だといえよう。

「派遣切り」は非正規社員の解雇による雇用調整だが、雇用調整自体は以前から存在した。高度経済成長期に調整の役割を担ったのは女性である。典型は繊維産業であろう。当時の繊維産業では、経常利益率が2%を割ると工場で働く女性労働者の採用をやめていた。女性労働者は働き始めて数年で結婚退職するのが一般的だったので、採用をやめると、自然に従業員数は減っていった。しかし、雇用機会均等化以降、雇用調整の役割は非正規社員へと移っていった。

雇用調整の方策は各国で異なる。正社員の解雇で雇用調整を行う米国に対し、正社員を解雇しづらい日本や欧州の大部分では、非正規社員が雇用調整の役割を担っている。どちらの方法も一長一短があり、正社員の終身雇用を維持するために、非正規社員を雇用調整に利用する日本の方法にも一定の理屈はある。